人間の精神を分子の動きやエネルギーの問題としてとらえる
人間の思考や記憶に関与する神経細胞のつながり
生命現象を生物を構成する分子のレベルで解明していこうとする分子生物学は、近年急速に進歩していますが、残念ながらまだ人間の思考や記憶のメカニズムを解明するには至っていません。しかし、脳の神経細胞のつながりが、脳の機能に大きく関与していることは解っています。
脳には小脳と大脳があります。小脳は「つながりを切る」ことで制御するといわれています。小脳の神経細胞は、生まれたばかりの時はつながった状態になっていますが、「辛い」経験をすることでつながりを切り、人間の行動や思考を制限します。例えば、熱いものを触るとやけどをするという「痛み」の経験があるとつながりが切れ、そのような行動はしなくなります。一方、大脳は「つながる」ことで制御します。赤ちゃんが親に「ママ」と言うと親が喜び、幸せであることを経験すれば、積極的にその言葉を覚えるようになります。このような経験は、神経細胞がつながることで記憶され、同じ行動がとれるようになります。
こうした人間の精神活動は、すべて神経細胞の形態変化に対応しています。神経細胞の一部を伸ばすことを促進したり、つながった状態を維持するように促すのは、嬉しいときに活性化する脳内麻薬と言われるドーパミンという物質であることはよく知られていますが、実際に、神経細胞の形態を変化させ、それを維持するのは細胞骨格という構造を作っているタンパク質です。
人間の精神活動は、物理で説明可能
では、このような仕組みは実際にはいかにして行われるのでしょうか。人間の細胞は分子でできていますから、このメカニズム、分子の動きやエネルギーの問題、すなわち力学的な問題に置き換えることができます。つまり、数値を使った物理で精神活動を説明できるということです。物理学と精神は一見関係ないもののように見えますが、実は深い関係があると考えられています。まだ遠い将来の話ですが、心理学を物理で説明できる時が来るかもしれません。
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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 教授 安永 卓生 先生
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