病気治癒への可能性が出てきた生物物理学
アルツハイマー病が起こる原因
アルツハイマー病では、脳にタンパク質がアミロイドという針状になって沈殿し、それと同時に神経細胞が破壊され脳機能が低下します。アミロイド化がなぜ起こるかはよくわかっていません。アルツハイマー病と似た原因の病気として、BSE(牛海綿状脳症)があります。この病気も正常なタンパク質が立体構造の異なる異常なタンパク質に変質することで起こると言われています。
病気の原因には、寄生虫のような生物学的な原因、毒物のような化学的な原因がありますが、アルツハイマー病やBSEはそれらとは違い、タンパク質の立体構造の変化という物理学的な原因で起こる病気だと考えられています。ですから、病気を治すには、生物学的や化学的な知識とともに、物理学的なアプローチが必要になります。
病気を治すヒントを与える生物物理学
そのようなアプローチを実際に行っているのが、生物物理学です。この学問では、生物を形作る生体高分子に注目します。タンパク質や核酸も生体高分子のひとつです。生物の体の成分のほとんどは水ですから、これらの高分子が水の中でどのような物理学的な性質を示すかを明らかにすることが、この学問の研究内容のひとつの目標になります。アルツハイマー病で言えば、どんな条件でタンパク質が針状になるかを研究します。
この学問は生命とは何かを物理学的なアプローチで解明することが大きな目的です。もともと、医療分野での直接の応用は考えられていませんでしたが、アルツハイマー病のような物理学的な理由で起こる病気に出会うことで、その可能性が出てきました。最近、はっきりした原因が解明されていないながらも、アルツハイマー病では針状になったタンパク質を水に溶かす薬が特効薬として開発され、治癒の可能性が出てきました。しかし、物理的な理由は明らかになっていません。そこが明らかになれば、同種の病気に対しても薬を開発できる可能性が出てくるでしょう。
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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 准教授 入佐 正幸 先生
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