カーボンナノファイバーを利用した顕微鏡
常温でカーボンナノファイバーを作る
カーボンナノチューブを作るには、普通600℃以上の高温環境が必要です。代替えとして性質の似たナノカーボン、カーボンナノファイバーなら常温でイオンビームを当てて作れます。カーボンで覆われている材料にイオンビームを当てて、周辺部のカーボンを削り、とんがり帽子の円錐状にしていきます。カーボンには面白い特徴があり、削り出すのに合わせて、円錐の先端に細長い突起部が避雷針のようにドンドン成長してカーボンナノファイバーができるのです。カーボンナノチューブは、中空のある筒状で、原子の配列がきれいに並んでいますが、イオンビームで作るカーボンナノファイバーは中空構造のない中身のつまった構造で、原子の配列は不規則です。でも電気的な特性は多層カーボンナノチューブとあまり変わりません。また高密度にも作製できるのです。
触って拡大する顕微鏡
このカーボンナノファイバーは顕微鏡にも利用できます。顕微鏡にはいくつか種類がありますが、「触って拡大する顕微鏡」という仕組みのものがあります。固体の表面を鋭くとがった針の先でなぞって、原子レベルの凹凸を確認し、それを描き出すという仕組みです。この顕微鏡を「走査プローブ顕微鏡」と言いますが、この顕微鏡に使用する針(探針)は、細ければ細いほど、小さな凹凸を確認できますし、深い段差があった時も、正確に把握することができます。そして、カーボンナノファイバーを使用すると、直径10ナノメートル程度以下という、非常に細い先端を持つ探針として使用できるのです。半導体の集積回路を作る上で、「トレンチ構造」という深い溝を確認することが重要なのですが、このカーボンナノファイバーで正確に確認できるようになりました。しかも、従来の探針はシリコン製で、相手がシリコンの場合、60回程なぞると、先が丸まってだんだん分解能が落ちてぼんやりした画像になってくるのですが、カーボンナノファイバー探針なら10倍以上も長持ちするようです。
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