ナノの世界から水の知られざる性質に迫る

ナノの世界から水の知られざる性質に迫る

身近な存在でありながらいまだ謎が多い水

液体の水は2種類あるという説を知っていますか。水には高密度の水と低密度の水があって、1気圧で室温くらいの通常の世界では、その2つが混ざった状態になっているのではないかと考えられています。身近な存在でありながら、まだまだわからないところが多い水の性質を、ナノサイズから調べていこうという研究が行われています。その実験に使われるのは「カーボンナノチューブ」という物質です。鉛筆の芯に使われる黒鉛は、シート状に結合した炭素原子が層になったものですが、その1枚を取り出して筒状に巻いたのがカーボンナノチューブです。

ナノサイズ空間における水の構造や運動

カーボンナノチューブの太さは1ナノメートルほどで、水分子が3つか4つ並ぶくらいの大きさです。このカーボンナノチューブに水分子を吸着させてその性質を調べます。カーボンナノチューブに水を吸着させてX線を当てると、回折のパターンから水分子がどういうふうに並んでいるのか、その構造がわかります。あるいは、核磁気共鳴(NMR)で得られたデータから水分子の運動を調べることができます。これらの実験では当然、水分子の様子を肉眼で見ることはできません。運動方程式に従って水分子がどのように動くのかを視覚的にシミュレーションして、実験の結果と比較します。

生命現象にも深く関わる水分子の動き

ナノサイズ空間においては、水が室温で氷になるなど、常識では考えられないような振る舞いをします。ナノサイズでの水の性質を知ることは、例えば水分子がカーボンナノチューブを高速で通過する性質をろ過装置に生かすなど、工業的な利用につながると考えられます。
また、水は生物にとって必要不可欠なものであり、その生命現象が起こるのは細胞というナノサイズの世界です。ナノサイズにおける水分子の運動や構造は、細胞膜を水分子が通過するメカニズムや、生体中のタンパク質の機能発現などにも関わりがあると考えられ、生物学の研究にもつながるものとして期待されています。

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神奈川大学 工学部 応用物理学科 准教授 客野 遥 先生

神奈川大学 工学部 応用物理学科 准教授 客野 遥 先生

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物性物理学、ナノ物質科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

物理学は、自然界のさまざまな現象を記述する法則を明らかにしていく学問です。誰しも子どもの頃には、「どうして空は青いのだろう」「なぜ虹は七色なのだろう」というような疑問を抱いたと思います。物理学はそんな疑問に答えを出してくれます。
自然現象に対する「なぜ」や「どうして」という疑問を持つ姿勢を大切にしてほしいです。研究の始まりが「なぜ」という疑問なのはもちろん、研究の途上にあっても疑問を持ち続けることが、新しい発見や新たな研究テーマへとつながっていきます。

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1928年創立以来、真の実学をめざし、自ら成長できる人材を育成してきました。近年では2021年、グローバル系3学部が集うみなとみらいキャンパスが誕生。2022年、「建築学部」を開設、2023年には理工学部を改組し「化学生命、情報学部」を開設。文理11学部すべてを横浜エリアに集結させ、世界レベルをめざす総合大学として、新たな一歩を踏み出しました。
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