慎重なステップを踏んで実験する薬理学
病気に効くことを証明
薬理学は、薬がなぜ効くのかを突き詰めていく学問です。もっと効く薬が作れる可能性を提示したり、新しい効果があることを証明したりすることもあります。例えば、血圧を下げる薬を投与すると、血圧が下がるだけではなく、心臓や腎臓にもよい影響があったり、糖尿病を防ぐ効果が出たりすることがあります。医師は経験的にその薬がほかの病気にも効果があることを知っていても、効くことが実際に証明されないと患者に投薬することができません。
世の中に出る薬は、約2万分の1
薬がなぜ効くかを証明するために、薬理学では実験を行います。まず細胞レベルでの実験を行います。細胞の中でどのようなことが起こっているのかを、遺伝子やたんぱく質、イオン、電解質にいたるまで調べます。細胞レベルで証明したら、動物実験を行います。例えば、高血圧の薬が動物に本当に効くのかを検証します。動物実験で効くことが証明できてはじめて人間に対しての研究に移ります。
人間を対象とした実験では段階を踏みます。もし副作用が強くて、体調が悪くなる人がひとりでも出ないようにするためです。まずは健康な人が対象。何錠飲めばいいのか、副作用は出ないか、中毒はないかなどをチェックします。次の段階では、例えば高血圧の薬であれば高血圧の症状だけで、ほかの病気がない患者に投与します。ほかの病気にかかっていると、薬と高血圧の関係が正確にわからないからです。この段階は数百人程度を研究します。それが終わると、複数の病気にかかっている人を対象とします。最終段階では数千人ぐらいの人が参加します。そのほかに、これまでに作られた薬との比較をします。長く効くとか、副作用がより少ないとか、これまでの薬より優れている必要があります。このように慎重に段階を踏んで実験されている薬は年間で15,000~20,000種類、実際に人間を対象とした実験まで行われるのは、そのうちの10例程度。最終的に世の中に出るのは、たったひとつぐらいなのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。