人類を脅かす「薬剤耐性菌」の拡散を追跡する
薬剤耐性菌は世界的な脅威
食の安全を守るためには、食中毒菌などの微生物についての理解が欠かせません。世界的な問題となっている、抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」もその一つで、2050年には薬剤耐性菌による死者数ががんを抑えて世界で1位になるという報告もあります。
細菌が薬剤耐性を獲得する原因の一つが「プラスミド」です。プラスミドは細胞の核の外にあるDNAで、薬剤耐性遺伝子をコードしたプラスミドが大腸菌から別の大腸菌へといったように菌の間で移動します。これを水平伝播(でんぱ)といい、プラスミド性薬剤耐性菌は拡散スピードが速いのが特徴です。薬剤耐性の仕組みには、細胞に入った抗生剤を分解するものや排出するものなどがあります。
薬剤耐性菌が拡散する仕組み
ベトナムにおいて、「薬剤耐性大腸菌(ESBL産生大腸菌)」がどのようにまん延しているのか実態調査が行われました。衛生環境が整っている日本ではESBL産生大腸菌を持っている人はほとんどいませんが、ベトナムでは人や食品、環境を調べると50%を超える確率で菌が検出されます。そして検出された菌の解析から、ESBL産生大腸菌は菌そのものではなくプラスミドを介して広がっていることが突き止められました。例えば食品から人の体の中に入ったESBL産生大腸菌は、体内では定着せずに、腸内の常在大腸菌に薬剤耐性プラスミドを渡したあと、多くは排出されると考えられます。
また、ベトナムへの渡航者からは、日本にいるときには検出されなかった薬剤耐性菌が高い確率で検出されており、人の渡航は薬剤耐性菌が国境を越えて拡散する経路の一つであると考えられます。
有用菌を使った対策を検討
これらの研究をもとにして、薬剤耐性菌への対策が検討されています。乳酸菌やビフィズス菌などの「プロバイオティクス菌(有用菌)」の中には、病原菌や大腸菌を減少させるものが多くあります。腸内細菌の絶対数を減らすことで薬剤耐性遺伝子の減少につなげられないか研究が進められています。
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