医療分野で期待されている、分光技術
網膜の変化を見る
目の網膜には光を感じる細胞がありますが、この細胞は膨大なエネルギーを必要とします。光の受容体は、網膜の表面にあるのではなくて、内側にあります。エネルギーを大量に消費するので、栄養を運んでくる血管に近い場所にあるのです。しかし、光が飛んできたときに、ほかの細胞を通ってから受容体に届くので、光の利用効率はよくありません。そこで、網膜のなかに中心窩(ちゅうしんか)という場所があって、そこだけ網膜が薄くなって光を受けやすくなっています。しかし、そのぶん、ダメージを受けやすくなります。光のエネルギーは例えば、紫外線のように、短い波長のものほど細胞によくない影響を与えます。そこで、中心窩には短い波長である青色の補色である黄色が分布していて、青色を吸収しています。これを黄班色素と言います。しかし、年をとると黄班色素が減ってきます。すると、光の受容体が光にさらされて、視力が下がって見えにくくなります。この黄班色素の変化を、分光技術を使って計測する方法が研究されています。分光とは、赤外線によって物質の特性を光スペクトル(波長の順に並んだ色の帯)で測定する技術です。
注射せずに血糖値を測る
赤外線による分光技術を糖尿病の血糖値センサに応用する研究も進んでいます。それぞれの物質には固有の分光特性があります。赤外線を当てて血管領域の分光特性を見ることによって、グルコース(ブドウ糖)の濃度を測定し、血糖値を測ります。現在は、糖尿病の人は1日に何回も血糖値を測るために採血をする必要があります。また、食前にインシュリンを注射します。トータルで1日に5回以上は身体に針を刺さなければなりません。血糖値センサなら、手のひらをかざすだけです。身体を傷つけずに血糖値が測れる、糖尿病患者にとっては夢のような装置です。この測定装置は将来的に、家庭で使える道具とすることを目標としています。赤外線を使った技術は日常生活のなかに入り、体温計や血圧計のように自分で血糖値を測る時代がやがてやってきます。
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