流体の動きを予測して原子力発電所の安全をサポート

原発事故防止へ
2011年の東日本大震災では、福島の原子力発電所で大きな事故が起きました。これは、津波で稼働用の電源が落ちて冷却水が失われた結果、高温になった燃料棒が化学反応を起こして水素が大量に発生し、水素爆発が生じたというものです。原子炉は、燃料を納めた「圧力容器」を中心に、それを取り囲む「格納容器」と「原子炉建屋」で構成されており、何らかの異常が生じて燃料が溶けてしまった場合、発生した水素や水蒸気は格納容器内で複雑なふるまいをします。格納容器の外側の建物の壁は耐圧性のない一般的なもので、もしも水素爆発が生じて格納容器が破損すると、放射性物質の流出を防ぐことは難しいです。そこで原発の安全性向上のために、異常時・通常時を含めて、格納容器内の水や水素といった「流体」の挙動を理解して予測する研究が行われています。
一筋縄ではいかないシミュレーション
原発は非常に大きな建造物で、大きいもので圧力容器の高さは約15メートル、格納容器の高さは100メートルに達し、実験用に同じ規模の装置を作ることは不可能です。そのため、安全性の評価は主にシミュレーション(数値計算)により行います。ところが、水蒸気や水、水素など液体と気体が混在し、さらに水と水蒸気の間で相変化が起きる格納容器内の状態は計算が複雑で、一筋縄ではいきません。そこで、より現実に近い評価ができるように、原子炉を模擬した実験装置から得られたデータと、計算の値を照らし合わせる「データ同化」という手法で、シミュレーションの精度向上が図られています。
次世代原発の安全性も流体力学で検証
現在稼働している原子力発電所は、水で炉心を冷却する軽水炉と呼ばれるものです。これに対して、実用化されようとしている高温ガス炉は、炉心を気体のヘリウムで冷やす原子炉で、メルトダウンが起こりにくいというメリットがあります。この次世代の高温ガス炉についても、ガスの効率のよい流れや炉心冷却の安全性など、流体力学の視点から研究が進められています。
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