医療の地域格差を計算する

医療の地域格差を計算する

広がる医療の地域格差

北海道には21の医療圏(市町村単位など、都道府県ごとに定められた医療計画の区域)がありますが、そのうちの約40%が、札幌市と旭川市に集中しています。その理由は、北海道では人口の約60%が都市部に集中しているからです。これは、少子高齢化による地方の人口減少も影響しています。そのため、地方で暮らす人々にとって、医療機関に行くには大きな困難がともないます。広大な北海道では、都市間の距離が長く、しかも冬季には公共交通機関が雪で遮断されることもあるからです。
こうした医療の地域格差を象徴するのが、「救急」の概念です。幼稚園児の母親を対象にアンケートをとったところ、都市と地方ではまったく異なる結果が出ました。都市に暮らす母親は、10分ほどで来てくれるのが救急車だと思っています。ところが、地方に住む母親たちは、自分の暮らす地域から1時間ほどかけて、都市の病院へ向かうのが救急車だと考えていることがわかりました。

地域格差を解消するために

地域格差を解消するための研究が、現在、急ピッチで進められています。まず、札幌などの大都市と地方の医療を比較し、遠隔医療が必要な地域はどこなのかを、情報学や経済学の手法を使って調査・分析します。例えば、救急病院の設置についても、どこにどれだけ設ければ、周辺からどのくらいの時間で行ける、といったシミュレーションを地図情報システムなどを使って綿密に行います。こうやって事前に理想的な病院の設置場所や規模を明確にすることで、実際に役立つようにしていくのです。

平等に医療を受けられる環境を

また、病気の度合いによって患者がどこの病院を使っているのか、エリアごとに細かく調査する作業も進められています。その結果から、患者の需要と医療機関の供給の状況を分析し、医療機関へのアクセスの実態を解明しようとしています。
行政との兼ね合いもあり難しい点はありますが、地域格差の現状を把握し、適切な対応ができるようになれば、患者に効率よく医療が行き渡り、よりよい社会になるでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 医学部 保健学科 教授 小笠原 克彦 先生

北海道大学 医学部 保健学科 教授 小笠原 克彦 先生

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医療情報学

先生が目指すSDGs

メッセージ

医療情報は、コンピュータや人間の体の仕組みを知るだけではなく、医療システムや病院経営などを含めた社会の全体像を知る必要があります。保健学科は心理学など文系的な要素も強いので、既成の枠にとらわれず、好奇心を持って取り組んでほしいですね。変化する時代にあわせて、自分のアンテナを張り、好奇心を持ち続けることが、勉強や研究のモチベーションを支えてくれます。そして将来、あなたが新しいことに取り組んだとき、いま学んでいる基礎的な学習がいかに大切かを、きっと実感できるはずです。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。