室町時代の『浦島太郎』は、ラストで神様になる?
おじいさん=不老不死の象徴
現在語り継がれている昔話の『浦島太郎』は、最後に太郎が玉手箱を開け、おじいさんになってしまうという結末です。しかし、室町時代に御伽草子(おとぎぞうし)として書かれた『浦島太郎』では、少し結末が異なります。おじいさんになった後、浦島太郎は鶴、乙姫様は亀となり、永遠に結ばれるのです。これはおじいさんになるという結末を悲劇的にとらえず、長寿や不老不死の象徴ととらえたためです。さらに、鶴から浦島明神(みょうじん)、つまり神様になったと示唆されている絵巻物まであります。
アレンジは古典文学にはつきもの
ほかにもいくつかパターンがあり、例えば、死後に火葬され、煙から神様になるという展開があります。また、明治~昭和の児童文学者・巌谷小波(いわやさざなみ)は現代版の『浦島太郎』を記す際に手を加えて、「浦島太郎と乙姫様は龍宮城で楽しく過ごした」という程度の記述にとどめ、「結婚した」という直接的表現を避けました。このように、作品が自由にアレンジされるのは古典文学ではよくあることで、どれが正解かということではありません。
世相に合わせ、作風も変化
作品のとらえ方や書き方は、時代の風潮や雰囲気の影響を受けることもあります。浦島太郎の伝説は『万葉集』にも登場しますが、このときは読み手となる貴族の嗜好に合わせ、ラブストーリーとして書かれています。このことは、ほかの古典でも言えることで、例えば『太平記』は戦前、天皇のために忠義を尽くす武士の物語ととらえられていましたが、戦後は忠君愛国の思想は薄れ、旧体制を打倒しようとする武士の革命記とみなすようになりました。また、『平家物語』の平清盛は本来、極悪非道の人物という設定でしたが、吉川英治の『新・平家物語』では貴族社会を打倒する革命戦士として書かれています。こうした変化や違いを追っていくことも、古典を読む楽しさのひとつです。
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法政大学 文学部 日本文学科 教授 小秋元 段 先生
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