アメリカ社会を映し出す鏡:『ヘアスプレー』の場合
ミュージカル『ヘアスプレー』
映画やミュージカルを鑑賞するときに、「背景には何がある?」「どのように受け入れられた作品なの?」などの視点を持つと、社会の実像を発見できます。例えば2002年にブロードウェイで初演されたミュージカル『ヘアスプレー』の舞台は、1962年の人種差別問題が根強く残る街です。主人公はテレビ番組出演を夢見る白人の女子高生ですが、随所に黒人との分け隔てられた暮らしが描かれます。主人公は黒人の友人と差別撤廃を掲げてデモ行進をして逮捕されてしまうものの、最後はミス・ヘアスプレーコンテストで優勝、テレビ番組の差別撤廃も実現するという物語です。
社会について考えるヒントがたくさん
キング牧師が「私には夢がある」と演説したのが1963年、アメリカで異人種間結婚を禁じる法律を憲法違反とする判決が出たのは1967年ですから、作品を通して人種隔離や人種統合など当時の社会の動きについて理解が深まります。また主人公がふっくら体形だったり、主人公の母親を男性が女装して演じていたり、容姿やLGBTについて考えるヒントも盛り込まれています。初演前年にはアメリカ同時多発テロが起きており、分断された国家をもう一度一つにしたい、暗く沈んだムードを明るくしたいという願いもヒットにつながった要因と考えられます。
当たり前を疑い「気づき」を得る
名作とされている作品でも、差別的な表現や社会構造のゆがみが隠されているケースも多々あります。「常識」を疑いながら改めて鑑賞すると、新たな「気づき」が得られます。日本版『ヘアスプレー』の制作の条件には、黒人役の顔を黒く塗らないことが含まれていました。原作者は、肌の色を黒く塗るという行為は人種差別を助長し、悪意のない演出上の表現であっても認めることはできないと述べています。CMやテレビ番組などで差別的な表現がなされることも、制作者に知識や教養があれば避けられます。このような学びも映画や舞台作品から得ることができるのです。
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愛知学院大学 文学部 英語英米文化学科 教授 松崎 博 先生
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