海外へと向かう武将たち 古典の読解で昔を知って今・未来を見つめる
為朝、義経、朝比奈義秀に共通する海外逃亡伝説
朝比奈義秀(あさひなよしひで)は鎌倉時代初期の武将で、幕府の御所の門を素手で押し破ったという伝説を持つ豪傑です。彼には一族が滅亡した合戦の際、船で逃亡したとの伝説があります。その逃亡先の説の一つとして朝鮮半島がありますが、この朝鮮半島逃亡伝説は、江戸時代中期以降の文学では朝鮮半島を征服する話へと脚色されていきます。なぜこうした変化が起きたのか。江戸時代中期以降の欧米列強の外圧、またその中で生まれてきた外国への蔑視観などが、本来は非業の死を遂げた英雄の怨霊に対する恐れや憧れによるものである不死伝説を、征服説へと変えていったのではないでしょうか。同じような伝説としては、伊豆大島で自害したはずの源為朝(ためとも)が琉球に渡って国王の父になったというもの、奥州平泉で自害したはずの源義経が蝦夷に渡って大王となったというもの(義経がモンゴルの英雄チンギス・ハンになったという伝説の元です)が挙げられます。
絵巻物の絵に見る古(いにしえ)の日本
平安時代末期制作の『信貴山縁起絵巻(しぎさんえんぎえまき)』は奈良の信貴山に毘沙門天をまつった僧・命蓮(みょうれん)の逸話を描いたものです。この絵巻を見てみると、例えば空をかける童子の絵は、左手と左足を同時に前に出しています。昔の人は現代人と歩き方が違ったのです。また乗馬の絵では馬が随分小さく見えます。昔の日本の馬はポニー程度の大きさしかなかったのです。このように絵巻物の絵からは、現在とは異なる古の文化や風俗を知ることができます。
昔を知って、今・未来を見つめる
なぜ歩き方や馬の大きさは今のように変わったのでしょう。探っていくと今が見えてきます。
私たちは古い時代の延長線上にある今を生きています。だから今しか見つめないのであれば、ものごとの本質にたどり着けません。古(いにしえ)・古典を学ぶということは昔を知って今を見つめ、未来を考えることでもあるのです。
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中京大学 文学部 日本文学科 教授 徳竹 由明 先生
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