教科書のパロディーも? ボードレールの詩と中等教育
教育から詩を読み解く
フランス19世紀を生きた、ボードレールという詩人・批評家がいます。フランス近代詩の基礎を築いた人物だといわれており、詩集『悪の華』などの作品を残しました。ボードレールの詩をより深く理解するために、彼が受けた教育に注目した研究が行われています。詩人が受けた教育内容を探ることで、19世紀の読者の共通認識を知り、ボードレールがその作品に込めた意図をよりよく理解できるかもしれないからです。
教科書の詩をパロディーする
19世紀フランスでは、社会階層によって受けられる教育に違いがありました。ボードレールが受けた中等教育は、恵まれた階層を対象にしており、学齢男子の3~5%しか受けていません。中等教育の大きな特徴は、ラテン語教育に力を入れていたことです。ボードレールはラテン語で詩を書き、ラテン詩の技法をフランス詩に用いていることからも、その創作の基盤には中等教育があったことがわかります。また、当時の教科書に載っていた詩をパロディーした作品もあります。現代の人々はボードレールの詩を読んでも元になった作品がわかりません。しかし同じ中等教育を受けた読者は、ボードレールの詩から透けて見える元の作品との対比を楽しんでいた可能性が高いのです。
失われた文化を発掘する
中等教育を受けていた19世紀のフランス人にとってその授業内容は当たり前のものだったため、記録はあまり残されていません。さらにボードレールの死後、普仏戦争に負けた影響で1870年以降のフランス中等教育からは、ラテン語を中心にした古典教育が徐々に姿を消していきました。「フランス語を教えずにラテン語や古典ばかり教えていたから負けたんだ」と考えられたからです。そのためボードレール作品の基盤になった共通認識は、現代のフランスには継承されていません。それでも散逸した手がかりを集めて、一度は失われてしまった19世紀のフランス中等教育を掘り起こすことで、ボードレールの作品にある隠れた魅力が見えてくる可能性があります。
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明治学院大学 文学部 フランス文学科 教授 畠山 達 先生
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