流転するDNA~生物は遺伝子情報を積極的に書き換えている~

流転するDNA~生物は遺伝子情報を積極的に書き換えている~

DNAは不変ではない

今日ではDNAという言葉はかなり一般化してきました。DNA鑑定の精度が上がり、犯罪現場での個人の特定や、血縁関係の有無にDNA鑑定が活用されることもあります。このように、DNAは個人を特定するもの、2つとして同じものがないとされる物質です。また、DNAは親から子へ受け継がれる「生命の設計図」です。それなら、DNAは生物の種ごとに不変なものなのでしょうか? あるいは一人のDNAは、生涯決して変わらないものなのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。
DNAは絶えず変化しています。ギリシャ語にある「Panta rhei(パンタ レイ=万物流転)」のように、DNAは常に変化しながら受け継がれているのです。

生殖とDNA

1つの個体(生物)を作り出すDNAの情報を「ゲノムDNA」と言います。有性生殖をする生物は、1個の受精卵が分裂を続けることでできていきます。この受精卵には2セットのDNA(父と母のそれぞれから1セットずつ受け継ぐ)が入っているので、子のDNAは、父とも母とも少しずつ違っています。また、生殖細胞が分裂するとき、DNAが複写されたあとで、父と母のDNAを切り貼りして、新しい形や性質が生み出されることもあります。これを遺伝的組換えと言い、この仕組みが生物の多様性につながっているのです。

後天的な変化(エピゲノムとコピー数変動)

DNAの変化は、組換え現象によるものだけではありません。DNAは後天的な要因、すなわち環境によっても変化するのです。例えば、一卵性双生児の場合、生まれたときのゲノムDNAはまったく同じですが、大きくなるにつれて違ってきます。小さい時にそっくりだった双子の兄弟が、成長するにつれて微妙な違いが出てくるのはこのためです。
また、何らかの原因で遺伝子情報が書き換わり、がん細胞ができることがあります。これも後天的な変化です。DNAは流転しながら受け継がれているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 教授 太田 邦史 先生

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 教授 太田 邦史 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生命科学、ゲノム科学、医学

メッセージ

生物学や生命科学を研究すると、生き物・生命が、いかに奇跡的なものであるか、生きていること自体がいかに不思議なことであるかが、ひしひしと感じられます。私たち一人ひとりがそうした生き物の一員であること、“今、ここに生きている”ことのかけがえのなさをしっかりと知ることで、命の大切さを感じてほしいのです。高校では生物学を学ぶ機会が少ないようですが、英語や国語に匹敵するくらい重要なジャンルだと思います。高校生のあなたには、ぜひとも積極的に生物学を勉強してほしいと思っています。

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。