えぐ味の原因「シュウ酸」の少ないほうれん草を開発する

えぐ味の原因「シュウ酸」の少ないほうれん草を開発する

ほうれん草は生では食べられないの?

ほうれん草は鉄分やビタミンCが豊富で、おひたしや炒め物などに大活躍の葉物野菜です。しかし、生で食べるとなんとも言えないえぐ味があります。これはほうれん草に含まれる「シュウ酸」という成分が唾液内のカルシウムと反応して現れるものです。一度軽く下茹でしてシュウ酸を抜く「アク抜き」をしてから食べるのが一般的なのはそのためです。しかし、茹でることで他の栄養成分も一緒に流れ出してしまいます。シュウ酸の少ないほうれん草を作れないかというのは、研究者たちの長年の夢でもありました。

品種改良でシュウ酸が少ないほうれん草に

ほうれん草は「雌雄異株」という特性を持ち、雄株と雌株が分かれて発生します。効率よく品種改良するためには、まず両性を併せ持つほうれん草を作ります。そこから種子を取り出し、遺伝子に作用する「メタンスルホン酸エチル」という化学物質を溶かした水に一定期間漬け込んだ後に発芽させます。そして、遺伝子変化を起こしたほうれん草の中から目的の条件が揃った株が発生するまで、この作業を繰り返します。こうした改良の結果、これまでよりシュウ酸が70%少なく生でも美味しく食べられるほうれん草の開発に成功しました。一方で、シュウ酸が減ったほうれん草は弱く育ちにくい性質がありましたが、この問題については水耕栽培により安定した生育が可能であることもわかってきました。

さらに食べやすく栄養価の高いほうれん草を

シュウ酸が減ったほうれん草は、その代わりの成分としてリンゴ酸やクエン酸が増加することも明らかになりました。これは後味も爽やかになり、疲労回復効果も高まるので、人間にとっては嬉しい変化と言えます。しかし、植物の生存にとってシュウ酸がどのような役割を果たすのか、シュウ酸を減らすとなぜ弱くなるのかなど、わかっていないことも多くあります。この点が解明されていけば、さらに食べやすく栄養価の高いほうれん草が開発できるようになるでしょう。

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石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 教授 村上 賢治 先生

石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 教授 村上 賢治 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

農学、植物遺伝学、植物育種学

先生が目指すSDGs

メッセージ

植物の品種改良に興味があるなら、遺伝子を調べ操作するために、生物だけでなく化学の知識も重要です。そのうえで、ベランダ菜園でもいいので、実際に植物を育ててみることをおすすめします。また、植物の栽培や農耕は、人類の歴史を考える際にも重要な活動と言えます。多くの地域の自然環境や気候、社会を知ることで視野が大きく広がります。たとえ同じ農業でも、国や地域が違えば農法も規模も大きく異なります。ネットや本で得た知識だけでなく、実際に体験したことが後の学びにつながります。

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人間の暮らしの根幹を支えている農業生産。その基盤となる自然環境。そして食べるということ。そうした人と自然との関わりをしっかりと見つめ、未来へ生かしていこうとすること。そんな思いを実現するために、本学では少人数制での指導体制(卒業研究指導時、教員1人に対し学生3人以下)を取っています。結果、就職率100%、官公庁就職率25%(2020年3月卒業生)という実績を上げており、地域社会のニーズに応えられるよう努めています。「住みよさランキング2020」全国1位の「ののいち」で私たちと一緒に学びませんか。