企業の顧客情報を盗んでも、紙を盗んだ罪にしかならない!?

企業の顧客情報を盗んでも、紙を盗んだ罪にしかならない!?

何十億円もの損害賠償を求められる時代

保険会社や通信事業者から顧客情報が流出して、大騒ぎになった事件がありました。いずれのケースでも、顧客に対して合計で数十億円にもなる巨額の顧客対応費が支出されています。自分の情報を盗まれた顧客は、プライバシーの侵害を理由に企業に対して訴訟を起こすことができます。では、顧客名簿を盗まれた企業は、盗んだ相手にどう対応できるのでしょうか。
信じられない話ですが、情報を盗んだ相手に対して法的な制裁を科すことは、つい最近までは、ほとんどできませんでした。

企業情報を保護する法律が未整備

刑法では有体物といって、形をもって存在(明鏡国語辞典)するモノにしか財物性が認められていません。ですから顧客情報を紙にプリントアウトして持ち出した場合、窃盗罪の対象となるのは印刷された「紙」です。データをCD-Rに落として持ち出した場合は、CD-Rの窃盗罪となります。情報を盗んでも情報窃盗罪に問えないのが、以前の日本の状況でした。一方情報の価値に敏感なアメリカでは、早くから情報窃盗罪に関する法律が整備されています。企業情報の扱いに関しては、日米で大きな格差があったのです。

情報を盗んでもほとんど罰せられなかった日本

1990年代の終わりに、ある自治体で住民基本台帳のデータが盗まれる事件がありました。データを盗んだのは、その自治体のシステムを担当していた企業のアルバイトです。この人物にはどんな刑が下されたでしょうか。
実は刑事罰、民事罰ともに問われるどころか、訴訟にさえなっていません。理由は情報の不正取得者を処罰する法律がなかったからです。それほど遅れていた日本でもようやく2003年に営業秘密侵害罪が取り入れられ、以降法律の改正が続けられています。ただ、日本では企業が営業秘密を盗まれて訴訟を起こしても、企業側の主張が認められる確率はまだ30%程度です。情報の取り扱いに関して日本企業が置かれている法的環境は、まだまだ厳しいのが実状なのです。

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関西大学 社会安全学部 安全マネジメント学科 教授 髙野 一彦 先生

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1886年、「関西法律学校」として開学した関西大学。商都・大阪に立地する大学らしく、学理と実際との調和を意味する「学の実化」を教育理念に掲げています。2010年4月には、JR高槻駅前の高槻ミューズキャンパスと、大阪第2の政令指定都市である堺市の堺キャンパスと、2つの都市型キャンパスを開設。安全・安心をデザインできる社会貢献型の人材を育成する「社会安全学部<高槻ミューズキャンパス>」、スポーツと健康、福祉と健康を総合的に学ぶ「人間健康学部<堺キャンパス>」を開設しました。