微生物の力を解き明かせば、未来がもっと豊かになる
農作物の虫害を防いでくれる微生物の力
人間は、昔から微生物の力を活用して生活を豊かにしてきました。身近なところでは発酵食品や酵素入りの洗剤、また医療分野でもさまざまな抗生物質やコレステロールを下げる薬などが作られています。
農業分野では100年以上前から、「バチルス・チューリンゲンシス(以下「Bt」)」という細菌が研究されてきました。一部のBtが産生するタンパク質には虫を殺す毒素が含まれており、それを利用した微生物農薬が現在使われています。近年では、Btのタンパク質産生遺伝子を作物に組み込み、農薬を散布しなくても虫を駆除できるトウモロコシなどが開発されています。
がん細胞を攻撃する種類も
Btは地球上に広く分布しており、すべてが殺虫機能を持っているわけではありません。Btがつくるタンパク質のうち殺虫機能を持つのは70数種類だけです。では、虫を殺さないBtのタンパク質にはどのような機能があるのでしょうか。例えば、生育中のジャガイモが植物病原菌によって台無しになる病気がありますが、この原因菌を殺す機能を持つBtが存在することも判明しています。さらに、ある種のタンパク質には、がん細胞を攻撃する機能があることが明らかになりました。これらのタンパク質は「パラスポリン」と名付けられ、国際的な研究が続けられています。将来的には、副作用のない、画期的ながん治療薬が開発されるかもしれません。
無限に広がる微生物研究のフィールド
Btを含め微生物に関する研究は各国で行われており、現在はタンパク質のDNA配列をネット上で検索するだけで、どの種類のDNAと近いかがすぐにわかるデータベースも整えられています。それでも、機能がわかっていないタンパク質の方が多く、Bt以外の微生物まで含めると、研究対象は無限と言えるほど広範です。
今は知られていない微生物によって、私たちの生活がもっと便利になったり、難治性疾患に対する特効薬が開発されたりする可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 教授 浴野 圭輔 先生
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