高速高温で荒ぶる空気 大気圏に再突入する宇宙機を守れ!

高速高温で荒ぶる空気 大気圏に再突入する宇宙機を守れ!

大気圏再突入時に起こる空力加熱

空気が高速・高温という特殊な状態で流れるとき、普段とはまったく違った現象が生じます。このような流体の現象を、コンピュータシミュレーションを使って解明する研究が行われています。そのひとつが、宇宙探査機や宇宙船が地球の大気圏に再突入するときに、空気の運動によって起こる加熱(空力加熱)現象です。大気圏に再突入する宇宙機の機体や乗員をこの加熱から守るためのシステム設計には、空力加熱現象の解明が不可欠です。

高速・高温での空気のふるまい

探査機や宇宙船が大気圏に再突入するとき、その速度は秒速7キロメートル(第一宇宙速度)を上回りますが、これは音速の約20倍です。超音速で飛行する宇宙船が大気の中を進むと衝撃波が発生し、空気が急激に圧縮されて温度が急上昇し、宇宙船が加熱されるのです。どれほど加熱されるのか、流体のシミュレーション技術を用いて予測するのですが、一筋縄ではいきません。空気の温度上昇は2万度を超えるため、空気の中で化学反応が起こり、粘性や熱伝導性などの性質が変わってしまうからです。激しい熱運動で窒素分子や酸素分子はバラバラの原子になり(解離反応)、さらに原子や分子から電子が飛び出し(電離反応)、プラズマ状態になります。

希薄な空気の特殊性

地上では、空気の流れる速度に比べて化学反応は圧倒的に早いですが、地上70kmから80kmの上空では空気が希薄であるため分子同士の距離が遠く、化学反応に時間がかかります。その結果、再突入の空気の流れと同時に化学反応が進行し、お互いに影響し合って空力加熱はますます複雑になります。状況は一瞬ごとに変化するため、それらをすべて追跡してシミュレーションしなければなりません。そうしてできたモデルは実際の実験結果を照らし合わせて検証され、宇宙機の設計へとつなげられます。
今後のさらなる宇宙進出に備えて、火星や水星など、地球とは違う組成を持つ惑星の大気についても研究が進められています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

富山県立大学 工学部 機械システム工学科 教授 坂村 芳孝 先生

富山県立大学 工学部 機械システム工学科 教授 坂村 芳孝 先生

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高温気体力学、熱流体工学、衝撃波工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は飛行機への興味から大学では航空工学を専攻しましたが、高校では化学や数学が好きでした。それが思いがけず、いまの研究で役に立っています。高校の勉強は何の役に立つのだろうと悩むことがあるかもしれませんが、そのときはあまり興味のないことも含めていろいろな種を拾っておくと、きっとあとで活きてきます。将来新たに勉強しなければならないことがあっても、高校までで学んだことはそのベースとなってくれるはずです。そして、衝撃波はいろいろな分野に応用できる面白い研究なので、ぜひ関心を持ってもらいたいです。

先生への質問

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