情報社会に革命をもたらす「らせん構造」の磁石

情報社会に革命をもたらす「らせん構造」の磁石

急増するデータ量に消費電力もウナギ上り

インターネットを通じて、写真や音楽、動画などを気軽に楽しめる現代社会では、膨大な量のデータが行き交っています。YouTubeなどの動画サイト、スマートフォンの普及もあり、2005年から2010年の5年間で、情報量は約10倍に増えました。当然、それらを処理するためのIT機器の電力消費も増えています。2025年には、2005年の5.2倍もの電力を消費すると予測されています。このような中、より高性能で省エネにつながる情報機器の開発が望まれています。

電子の回転を利用するスピントロニクス

コンピュータに使われているのは、磁石の原理を応用し、S極とN極の向きを0と1の2進法で表す磁気デバイスです。磁石の利点は、「情報を記録するために電気を使用しないこと」「電力が途絶えても情報を長期間保存しておけること」です。また磁石は、小さく分割しても性質が変わらないため、磁石を原子サイズまで小さくして、電子が持つ回転を利用する「スピントロニクス」が情報機器の高性能化と省エネの切り札として期待されています。

らせん構造を持つ次世代磁石

ところで、現在使われている2進法より効率の良い情報処理方法はないのでしょうか。これに答えるため、「カイラリティ(キラリティ)」の性質を持つ次世代の磁石が研究されています。カイラリティとは、右手と左手のように鏡合わせにある関係のことで、自然界には素粒子やDNA、巻貝、水晶、台風、銀河などあらゆるところに存在しています。
カイラリティの性質を持つ次世代の磁石に弱い磁場をかけると、まるでリボンが周期的にねじれたりほどけたりするような構造が現れることが、世界で初めて観測されました。この原理を情報処理に生かせば、2進法よりもずっと多い値で計算できます。ハードディスクの容量をはじめ、情報機器の性能を今までとは比べものにならないくらい飛躍的に向上させるものとして世界から注目されているのです。

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大阪公立大学 工学部 電子物理工学科 教授 戸川 欣彦 先生

大阪公立大学 工学部 電子物理工学科 教授 戸川 欣彦 先生

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物質科学、固体物理学、物性物理学

メッセージ

世の中で自分しか知らないことを見つける瞬間は、研究の大きな醍醐味です。小さなことでも、発見の瞬間に立ち会うと、とてもワクワクします。そんなワクワクする瞬間に巡り合うため、日々いろいろとアイデアを練り、挑戦を繰り返し、何度も失敗を重ねますが、それこそが研究の楽しさなのです。
研究での発見は、ほかの人に伝えて初めて意味を持ちます。そのためには、話す力、書く力、聞く力、読む力が重要です。理系に興味があるあなたも、ぜひ国語力を磨くようにしてください。

大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。