月の進化史をぬりかえる発見
遠く離れた場所のデータを入手する技術
遠く離れた場所の様子を、そこに行かなくても観測する方法に、「リモートセンシング」という技術があります。人工衛星や飛行機にセンサを搭載し、電磁波を使ってデータを入手するもので、広範囲にわたり実態を観測できるのが利点です。身近な例として、テレビなどの天気予報で雲の動く様子を追ったものがあります。また、現地に行かなくてもデータが手に入るため、例えば地下資源探査では遠隔地を観測し、実際の探査の前に目星をつけるのにも活用されています。
月の地下構造がリモートセンシングで明らかに
2007年に宇宙へ打ち上げられた月探査機「かぐや」では、リモートセンシングによる観測技術で、世界初の発見がありました。岩石は種類によって電波の跳ね返り方が異なるため、この特性を使って、月の地下構造をこれまでより詳しく調査できたのです。月には、「海」と呼ばれる玄武岩に覆われた部分があります。玄武岩はクレーターに溶岩が噴出して、冷え固まったものです。調査の結果、月の海の地下は、玄武岩とレゴリスという岩石のサンドイッチ構造をしていることがわかりました。レゴリスは玄武岩の表面に宇宙線が当たり、砂状になったもので、溶岩として流れ出た玄武岩が冷え固まり、次に噴出が起きた何億年という間にレゴリス層として形成されたと考えられます。
月の表面に寄ったシワが示す進化の歴史
また月の海の表面には、「リッジ」と呼ばれる盛り上がった部分があります。過去の観測では、これは玄武岩が噴出した時に、その重さで下に沈んでできたシワだと言われていました。しかし「かぐや」の観測により、玄武岩の堆積は、場所にかかわらずほぼ均一な厚さであることが判明したのです。それならばリッジは、玄武岩が下に沈んでできたシワではなく、月が冷えていく過程で横から押されてシワとして盛り上がったものだと考えられます。このことは、月の表層はリッジができた時には、まだ熱くて軟らかかったという定説を覆し、月の進化史を見直すきっかけとなりました。
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