人はなぜ「なつかしい」と感じるのか
なつかしいという感情は人間だけ?
人は昔の出来事に触れると、なつかしいと感じます。そして、そのことをまるで追体験するかのように思い浮かべることもできます。例えば、小さいころ遊んだおもちゃを見つけて、「なつかしい」と当時の思い出に浸ったことはありませんか? 諸説ありますが、なつかしいという感情(ノスタルジア)や過去を思い返す能力は、ほかの動物にはない人間特有のものだと言われています。なつかしさは人間にとってどのような意味があるのでしょうか。
なつかしさを感じると気分がポジティブに
心理学のある研究によると、人間がなつかしさを感じやすいのは少しネガティブな気分のときで、なつかしさを感じた後は逆に少しポジティブな気分に変わることがわかっています。また、なつかしいと感じるときは、ほかの人に支えられているという「社会的つながり」を感じる度合いが高くなるという結果もあります。つまり、なつかしさには気分をうまく調節したり、人との絆を深めたりする役割があるのです。
人間らしさを理解するカギ
人間の記憶は、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分類されます。エピソード記憶とは友だちと遊んだなど自分が過去に体験したことの記憶、意味記憶はものの名前など一般的な知識のことで、この2つは質的に異なるものです。なつかしさはエピソード記憶と関わっていて、人間の発達段階で比較的遅い4~5歳に獲得されることがわかっています。
例えば、アルツハイマーなど認知症にかかり、脳の海馬と呼ばれる部分を損傷すると、このエピソード記憶がうまく呼び出せなくなります。ところが、そのような人にかつて好きだった音楽を聴かせるなどすると、いろいろな記憶が呼び覚まされ、元気になることがしばしばあります。なつかしさが刺激となるのではないかと考えられますが、そのメカニズムはまだよくわかっていません。人はなぜなつかしさを感じるのか、これを解き明かせば人間らしさの理解にまた一歩近づくことでしょう。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 情報学部 人間・社会情報学科 心理・認知科学系 教授 川口 潤 先生
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