20世紀芸術の波「アヴァンギャルド」と『ゴドーを待ちながら』

20世紀芸術の波「アヴァンギャルド」と『ゴドーを待ちながら』

革命的演劇『ゴドーを待ちながら』

サミュエル・ベケット作、『ゴドーを待ちながら』(1953年初演)という演劇は、二人の登場人物がひたすら「ゴドー」という人物を待っているだけという型破りな演劇です。演劇に欠かせないはずのドラマチックな展開が何もありません。当初は当惑をもって受け止められましたが、現在では20世紀の演劇で最も重要な作品とされています。
なぜこのような作品が生まれたのかを考えるには、20世紀の芸術に起こった大きな波「アヴァンギャルド」について考えなくてはなりません。

20世紀芸術の前衛、アヴァンギャルドとは

例えば絵画だと、19世紀までは、誰々を描いた肖像画だ、リンゴを描いた静物画だといったように、「この作品は~を表現している」とわかるのが常識でした。しかし20世紀になって抽象絵画が出てくると、何を描いているかは見る人が考えるしかなくなりました。
このように20世紀に入って現れた、それまでの常識を覆す芸術を「アヴァンギャルド」といいます。これの極端な例が、便器をそのまま作品にしたマルセル・デュシャンの『泉』(1917年)という芸術作品です。また、音楽ではジョン・ケージの『4分33秒』(1952年)があります。この作品はピアニストがピアノの前に座り4分33秒の間、何もしないという「作品」です。その間の沈黙や客が耳にする雑音が音楽であるというユニークな作品です。

『ゴドーを待ちながら』の魅力

『ゴドーを待ちながら』はそこまで極端ではありませんが、それまで自明であった人物や場所・時間についての設定がないことや、ただゴドーを待っているだけという状況は、空前のものでした。
しかも、この作品はただ新奇なだけではなく、生や死、人間の実存といった深い問題についても考えさせられ、同時に喜劇的な面をもあわせもつ、不思議な魅力のある作品です。
こうしたことから、『ゴドーを待ちながら』は演劇に革命をもたらした傑作だと考えられているのです。

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東京大学 教養学部 言語態・テクスト文化論コース 准教授 田尻 芳樹 先生

東京大学 教養学部 言語態・テクスト文化論コース 准教授 田尻 芳樹 先生

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メッセージ

高校時代は、しばしば親や教師の価値観と衝突します。でも、必ずしもその価値観に従う必要はありません。自分が興味のあることをやってください。
もしも「これが自分の興味のあることだ」というものがはっきりしていなかったら、物おじせずにいろいろな体験をし、いろいろな種類の人に会い、いろいろな作品に接してください。そのうち、自分に大きなインパクトを与える何かに出会います。それは自分が好奇心をもって幅広く体験してこそ出会うものなので、貪欲にいろいろな方向にアンテナを張りましょう。

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