「音」を使って、より快適で安全な生活を実現させよう

「音」を使って、より快適で安全な生活を実現させよう

特定の音だけ取り出す技術

携帯電話で通話をする際、雑音のせいで相手の声が聞き取れないことがあります。こんなとき、必要な音だけピックアップして聞くことができたら便利でしょう。「適応信号処理」という分野は、まさにそれを研究しています。混在する音(信号)の中から、目的の音だけ取り出したり、消したりする技術があるのです。

広い分野での応用が可能

例えば既存の楽曲から、ボーカル音だけ、またはギターやピアノなど任意の音だけ消すことが可能です。実際、この技術を利用して、自分の好きな楽曲からボーカル音を消し、カラオケとして楽しめるというスマホ用アプリが開発されています。またノイズを抑える目的で使えば、iPodなどのメモリ・オーディオ用ヘッドフォンの機能も、これまで以上の精度が期待できます。
さらにこの技術は、音楽以外にも幅広い分野での応用が可能です。医療分野を例にあげると、妊娠中、胎児の健康状態を検査するのに超音波を用いますが、その際、妊婦の体内のさまざまな音の中から胎児の心拍音のみ抽出することで、的確な診断を速やかに行うことができます。産業分野では、工場の騒音下でも人の声はよく聞こえるようにするなど、職場の安全対策に役立ちます。

実用化のカギは「予測」

特定の音を取り出す技術は、従来は複数の装置と膨大な演算量が必要だったため、スマホなどの小型の製品に使用するのは困難でした。これを可能にしたのが、「予測」という新技術です。過去の音声データを参照し、例えば「おはよ」の後には「う」が続くだろうと、次に来る音の可能性を推定するのです。装置も演算量もわずかで済み、実際的な技術として活用できるようになりました。
技術革新は、小さなアイディアや発想の転換から生まれます。そして企業との連携で、多様な製品やサービスに姿を変え、私たちの日常を支える大きな力になります。それが工学を学ぶことの醍醐味であり、面白さでもあるのです。

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先生情報 / 大学情報

公立諏訪東京理科大学 工学部 情報応用工学科 准教授 田邉 造 先生

公立諏訪東京理科大学 工学部 情報応用工学科 准教授 田邉 造 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

電子システム工学、ディジタル信号処理

メッセージ

スマホもデジカメも、使うだけなら誰にでもできます。そこから一歩踏み込んで、「なぜ」「どうして」などの仕組みを考えることから、新しいものが生まれます。理系の学問とは、仕組みを考える場です。勉強しながら、「こんなものがあったらいいな」「この仕組みを使えば、あれも作れるのでは?」と、いろいろなアイディアを出してみてください。漫然と数式だけ解いていても、面白くありません。それを使って何ができるか、常に考える癖をつけることが、アイディアの実現、技術の革新にもつながります。

公立諏訪東京理科大学に関心を持ったあなたは

公立諏訪東京理科大学は、地域に貢献すると共に世界にも羽ばたく人材を育てることを目標として、2018年4月にスタートしました。日本有数のものづくり産業の集積地である諏訪地域の特長を生かした機械電気工学科と、今後のものづくりの環境を大きく変化させるAI、IoTなどの情報通信技術の力を発揮する情報応用工学科の2学科を置き、「ものづくりと情報通信技術の融合」を目指した教育と研究を推進します。さらに、「工学と経営学の融合教育」で、工学に加えてマネジメントを学ぶことにより、総合的な力や判断力を身につけます。