音のコントロールで快適空間~建築における音響設計とは~
建物の快適性に欠かせない音の設計
住宅やオフィス、学校やホールなど建築空間の設計に欠かせないのが、熱・空気・光・音の4つの要素です。断熱・換気・照明・音響設計により、暑さ寒さをしのげる、明るく、静かな建築空間は、そこに住む人を健康で快適にします。熱や光は省エネの観点から一般の関心も高いのですが、音の問題となると建築の中ではなかなか注目されない現実があります。しかし、特にマンションなどの集合住宅を中心に、住んでいる人の苦情の第一位は音に関する問題なのです。
建築物の用途に応じた音環境をつくる建築音響学
音の制御が難しいのは、熱や光とは違って、音は波動として伝わり、ガラス窓や壁を突き抜け、また時に共鳴という現象を起こすからです。自動車の騒音や人の声、また階上の部屋の床から響く生活音、ホールでの演奏音など、さまざまな音をコントロールし、建物の目的に応じた適正な音の環境をつくるのが「建築音響学」と言われる分野です。建築音響学には、居住空間を取り巻く騒音を遮断する「騒音制御」と、室内の響きを調整する「音響計画」の2つの柱があります。また音響計画では、例えば音楽ホールは、演奏する楽器の音が壁や天井に反射して響く「残響」を最適にして美しい音をつくりだすこと、一方、講堂や教室などは、人の声を聞き取りやすくするために「吸音」によって響きを抑えることが重要になってくるのです。
保育園の音環境が子どもの成長に影響する
こうした建築物の音環境で、最近注目されているのが保育園での室内の騒音問題です。ある保育園を調査したところ、保育室内の騒音は80デシベル以上と、バスや自動車が目の前を通る時と同じレベルでした。これだけ高い騒音は、子どもの聴力や言語能力の発達に影響を及ぼす可能性もあると言われています。実験的に吸音材を設置して騒音レベルを下げたところ、「大声を出す頻度が減った」「子どもが落ち着いた」などのよい変化が見られました。このように、建築物の音環境の問題は、生活の中で注目すべき重要なテーマなのです。
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム 教授 川井 敬二 先生
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