未知なる暗黒物質の正体をつきとめる技術
暗黒物質の風
宇宙空間には、まだ観測されていない未知の物質「暗黒物質(ダークマター)」があると考えられています。この暗黒物質の候補として挙げられているのが、未知の素粒子「WIMPs(Weakly Interacting Massive Particles)」です。
太陽系は毎秒200キロで銀河系を回っていて、そのとき暗黒物質を含んだ宇宙からの風を受けています。暗黒物質にWIMPsが存在するなら、その風を解析することによって正体がわかるはずです。
世界最高感度のフィルムと世界最速の装置で解析
暗黒物質はほかの物質とほとんど反応しないので、さまざまなものをすり抜けていきます。そこで用いられるのが、特殊な写真フィルムを使った「原子核乾板」です。これでダークマター望遠鏡とも言うべき検出器をつくり、宇宙からの風をうまく受け止めます。WIMPsがフィルムに衝突すると、フィルムの物質と反応して飛跡(ひせき)が映し出されるというわけです。
暗黒物質の正体はまだ明らかになっていませんが、装置やフィルムの改良を重ね、今ではわずか数百ナノメートル(数千万分の1メートル)の飛跡も見つけられるようになっています。飛跡をより速く、正確に読み取るユニークなアイデアも生まれました。原子核乾板にはゼラチンが使われているので、引き伸ばすことで小さな飛跡を簡単に拡大できるのです。
火山の内部観測に応用
原子核乾板の技術は、宇宙研究以外にも利用されています。2007年には、火山の内部を調べる実験に成功しました。宇宙から降りそそぐ陽子などが大気中の原子核と衝突すると、素粒子の一つであるミューオンが発生します。そのミューオンを原子核乾板でとらえ、透過率を調べることによって、溶岩の密度やマグマの通り道などがわかるのです。
さらに原子核乾板は非破壊で検査できることから、遺跡、原子炉、ビルなどの調査、マンモグラフィーなどの医療現場といった多分野での応用が期待されています。
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