植物の体内時計が、世界の食糧難を救う

植物の体内時計が、世界の食糧難を救う

生きるためのメカニズム

私たちの体に「体内時計(概日時計)」があることは知られていますが、植物にも体内時計があります。植物の成長を早回しした映像を見ると、葉が上下に動くのがわかります。これは、光合成を最適化したり、葉が夜露にぬれないようにしたりと、体内時計が働いている証です。日が長くなると花をつける長日植物と、日が短くなると花をつける短日植物がありますが、それも体内時計の働きで日長を測っているからです。同じ時期に一斉に花を咲かせて交配し、遺伝的に多様性のある集団を残そうとしています。体内時計は生き残るために古代から備えられたメカニズムなのです。

遺伝子変異が品種を変えた

体内時計の遺伝子の変異で、早咲きの品種ができたのが小麦です。小麦は、1万3000年ほど前から栽培されてきました。当時のメソポタミアの地中海性気候で育つ植物で、夏の終わりに収穫されていました。シルクロードを経て中国に伝わった頃には、遺伝子変異が起きて春の終わりに収穫できる早咲きの小麦ができていました。20世紀には、食糧難で苦しんでいたヨーロッパに、その早咲き小麦が伝わって人々を救った歴史があります。ちなみに、昆虫やバクテリアにも体内時計があります。生物ごとに違う遺伝子を使うこともわかりつつあります。

体内時計の制御で新種を

現在は遺伝情報であるゲノムデータが公開されていますが、それだけでは生物の理解には十分ではありません。植物は進化の過程で遺伝子のコピーを何倍にも増やした経緯があるため、重複した遺伝子が複数あり、これらが同一の機能を持つタンパク質を発現させます。このような特徴を持つ生物の場合、化合物を使って実験すると、重複した遺伝子の機能も明確にできます。
化学的な手法などから体内時計のメカニズムが解明されて、それが制御できるようになれば、その先には、新たな手法での植物の品種改良も可能となります。例えば、生育に適さない時期になる前に収穫できる早咲きの植物ができれば、世界で懸念されている食糧不足に貢献できるでしょう。

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名古屋大学 農学部 応用生命科学科 植物統合生理学研究室 教授 中道 範人 先生

名古屋大学 農学部 応用生命科学科 植物統合生理学研究室 教授 中道 範人 先生

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分子生物学、植物生理学、応用生物化学

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