植物由来の工業原料を作り出す

植物由来の工業原料を作り出す

限りある資源の代わりに

私たちの生活は多くの石油製品に支えられています。石油は、ガソリンなどのエネルギーになるだけではなく、プラスチックや化学繊維、合成洗剤などさまざまな製品の原料になります。石油が枯渇すれば、今の私たちの生活は成り立たなくなるでしょう。持続可能な循環型社会を築くためには、石油に代わる資源の確保が急務です。
再生可能エネルギーとして注目を集める太陽光、風力、地熱などは、エネルギーを供給してはくれるものの、石油のような工業原料は取り出せません。そこで、再生可能な資源として、バイオマスの90%以上を占める木材から工業原料を作り出す試みが行われています。

ミステリアスな木の成分「リグニン」

木の主な成分に、「セルロース」と「リグニン」があります。セルロースは木の約45~50%、リグニンは約20%~30%を占めています。
セルロースは紙の原料や衣料、あるいはバイオエタノール(バイオ燃料)の原料に使われています。一方、リグニンの利用は進んでいません。リグニンはプラスチックの原料や植物由来の接着剤などに適した資源だと考えられていますが、まだ構造が解き明かされていないからです。リグニンは、数万の原子が複雑に結合してできる巨大分子(高分子)で、決まった構造がありません。でき方によって一つひとつ異なるのです。構造が特定できれば、効率よく木からリグニンを取り出す研究も進むでしょうが、現状ではなかなか困難なのです。

自然との共生をめざして

しかし近年の研究で、植物の種類によるリグニンの構造の違いや化学薬品に対する反応などが、少しずつわかってきました。現在は顕微レベルで化学分析が可能な方法を用いて、リグニン構造の解明が続けられています。
リグニンはもともと害虫の侵入を防いだり、微生物による分解を食い止めたりと、ほかの生物に利用されないために木がつくった成分です。そのリグニンを人間がいかにして利用するのか、この答えをみつけることが、人と自然が共生する第一歩になるでしょう。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 農学部 生物環境科学科 教授 福島 和彦 先生

名古屋大学 農学部 生物環境科学科 教授 福島 和彦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

農学、森林化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

20世紀は、言わば「石油漬け」の時代でした。今は地球温暖化をくい止めながら、石油を使わない新しいライフスタイルを実行する時期に来ています。生態系を維持しながら、人間の営みに必要なエネルギーや材料を「木」から調達する、そのような仕組みを作り上げるのです。
あなたがこの分野に興味があるなら、環境保全だけではなく政治や経済にも目を向け、広い視野で情報を得るようにしてほしいです。それらの情報を多角的にみて、名古屋大学で森林化学の知識で困難を突破する力を養ってください。

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。