がん治療を飛躍的に進歩させる超伝導の技術
粒子のビームでがんを治療
超伝導でよく知られている現象の一つに、電気抵抗ゼロがあります。例えば超伝導綿材を巻きコイルにして電流を流すと、抵抗がないため以前よりも強力な電磁石が作れます。この超伝導技術を応用した研究が、さまざまな分野で進んでいます。
医療分野では、すでにMRI(磁気共鳴映像法)で超伝導の電磁石が広く実用化されていますが、近年、開発に力を入れているのが、粒子線がん治療用加速器への応用です。加速器とは、電荷をもつ粒子を加速させる装置のことで、これで粒子線を発生させ、がん細胞に照射、破壊するのです。非常に高度な放射線治療法で、外科手術をせずに高い治療効果をあげることができます。
日本の技術が世界をリード
同じ放射線治療でも、X線は体の内部に行くほど効果が弱まる上、まわりの正常な細胞にもダメージを与えます。粒子線の場合、体内のがん細胞の位置に合わせて粒子エネルギーを調整できるので、がんをピンポイントで狙い撃ちすることが可能です。
粒子線には陽子線と重粒子線(炭素線)があり、どちらも治療に有効ですが、より治療効果が高いのは重粒子線です。重粒子線の治療装置の開発では、加速器、ビームの照射装置、ビームの照射技術と、いずれも日本の技術が世界をリードしており、1994年、世界第一号機が日本の放射線医学総合研究所に設置されました。陽子線と比べ、非常に高いエネルギーにまで粒子を加速させるため、使用する電磁石の数も膨大で、最新の施設でも65m×45mと大型です。
次世代型の普及をめざした研究も
現在は、次世代型として、加速器の小型化、高性能化、省エネルギー化をめざした研究も進められています。例えば従来のものより高めの温度で超伝導状態となる線材を電磁石に用いれば、同じ規模でより高い磁力が得られ、そのぶん装置の小型化が見込めます。この「高温超伝導」の技術においても、日本は世界最高水準です。日本発の重粒子線がん治療システムが世界の医療現場で活躍するのは、そう遠い未来のことではないのです。
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先生情報 / 大学情報
早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授 石山 敦士 先生
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