哲学的な考え方をすると、世界はまるで変わって見える
日本酒の醸造過程を哲学的に見ると
日本酒は米と麹(こうじ)、水を醸造させて生み出されています。この醸造過程を化学式で端的に表すことはできますが、どういうプロセスをたどっているのか、説明することは容易ではありません。優秀なコンピュータで計算しても、プロセスはおろかどんな日本酒が製造されるのか、具体的に予測することは不可能なのです。ところが現実には醸造槽の中で化学変化は進行し、きちんと日本酒が完成します。これは哲学的な見方をすれば原材料たちが自ら計算し、結果を出しているとみなすことができるのです。
自然の中にも計算はある?
同じように自然も、何らかの計算を働かせています。例えば月は一定の法則に従い、地球を周回しています。これを単に自然法則に支配されているだけと見るのは、19世紀までの考え方です。月が周囲の環境と情報をやり取りし、自らの位置を定めて動いていると見るのが、現在の考え方です。人間は自らの脳内でのみ計算やプロセスが進行していると考えてしまいがちですが、その見方は正しくありません。複雑な計算やプロセスは自然の中にも含まれ、おのおのが判断して現象を生み出しているというのが、19世紀以降の哲学者たちが導き出した結論なのです。
人間は進化しているわけではない
実はこうした考え方はプラトンやソクラテス、アリストテレスといった古代ギリシアの哲学者が思い描いた世界観に近いと指摘する人もいます。古代の人の考え方は決して荒唐無稽ではなく、むしろ現代人に近かったというわけです。昔にさかのぼるほど人間は愚かで、現代人ならば自然もコントロールできると考えることは極めて安易です。確かに発達した情報機能をもってすれば多くのプロセスを実現できますが、物事はそんなに単純ではありません。「人間も自然の中に深く埋め込まれた世界を構成する物質のひとつに過ぎない」と考えることが、重要な概念に取り組む上でのスタートだとも言えるのです。
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