未来のコンピュータは熱で動く
ミクロ領域の熱世界
これまではもっぱら再生するだけだったDVDやCDですが、記録装置とメディアの大幅な値下がりによって、オリジナルの音楽CDやDVDビデオを作る機会もずいぶん増えてきました。これらの記録メディアは、基本的には二枚のプラスチックの円盤の間にごく薄い感熱フィルムが挟まれた積層構造になっており、フィルムの上の微小な領域をレーザーで加熱し、組織を部分的に変質させることによって0と1のデータを書き込んでいます。
ここで最も問題なのは、ディスクの積層構造を作っているプラスチックと感熱フィルムという二つの材料には、熱の伝わり方に大きな違いがあるということです。一般的に言って、ほかの材料と比べるとプラスチックは比較的熱を通しにくく、結果的に熱を溜め込んで劣化を早めてしまいます。また、実際にレーザーがフィルムを焼いているとき、どのような熱の挙動が起こっているかがわからないと、長期保存ができ、エラー率も低い高品質な記録メディアは作れません。
このため、従来よりはるかにミクロな領域の熱世界を観測できる機械が開発され、よりよい記録メディアのための材料開発や、さまざまな会社の製品を公正に評価できる基準と測定方法の確立が行われてきました。
熱を制するもの、ITを制す
ここで開発された熱観測技術は、シリコン以外の材料から作る柔軟性を持った薄膜半導体や、廃熱・体温など微量な熱からでも電気を発生させることができる熱電素子など、未来のIT社会を支える基盤技術の開発に役立っています。
熱電素子というのは、二つの領域の間の温度差を利用して発電する電気部品です。その性質上、容易に熱を伝えてしまっては温度差が生じにくく、発電の効率が落ちてしまいます。ですから、一般の電子回路の設計とは逆に、いかにして熱を伝えないかが重大な問題となってきます。この技術が実用化されたときには、体温で動く腕時計やバッテリーいらずのウェアラブルコンピュータなどが世に出回っていることでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。