「きず」を探して安全を守る、渦電流の目
渦電流とは
電磁誘導は、磁場と導体の相互作用によって電気や電流が生じる現象です。さらに、金属のような導体が磁場に置かれると、磁場の影響を受けて導体の内部に渦状の電流を生じることを「渦電流」と呼びます。渦電流は、私たちの生活においてさまざまな形で役に立っています。例えば、IH調理器は渦電流を利用して加熱する仕組みです。また、交通系ICカードはカードリーダーの磁場による電磁誘導によりカード内に電力を送り、内部の情報を読み取っています。渦電流は、身近なさまざまな現代の科学技術の進歩に欠かせない要素なのです。
渦電流で「きず」を検出
渦電流は金属表面の「きず」を検出するのも得意です。金属のきずは、表面が削れて素材が欠け、そこに空気がある状態です。空気は電気を通さないため、金属内に発生した渦電流はきずを避けて流れます。きずのない箇所と比較すると、渦電流が形成する磁界が変化することからきずを検出できるのです。
この特性を応用して、飛行機の機体の損傷検査にも渦電流が使われています。中でもジェットエンジンのタービンブレードは、それ自体が大きすぎてX線検査機器を通せないために、分解してから検査して、再び組み立てる手間がかかります。この問題を解決するために、将来的には直接エンジン内部に通せるほど小型の渦電流検査機器の開発が望まれています。
渦電流のメリット
渦電流を使った検査は、非破壊検査という技術の一分野です。非破壊検査は他に超音波やX線を使う方法がありますが、渦電流は小さなきずの検出に優れています。また、電気のみを使用するため、検査が非常に迅速に行われるという利点もあります。原子力発電所の保守にも渦電流が使われ、核融合炉への応用も模索されています。核融合炉内部は高温かつ高い磁場が存在するため金属にとって過酷な環境であり検査が欠かせませんが、検査方法が確立されていません。迅速に詳しい検査ができる渦電流は、核融合発電所でも重要な役割を果たすことが期待されています。
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