捨てられていたカニ殻から、夢の素材をつくり出す
これまで捨てられていたカニ殻
鳥取県の境港ではカニが多く捕れます。ベニズワイガニでは日本一の水揚げ量です。漁港の周辺では食品加工会社があり、缶詰などを生産しています。カニの身を取り出す際に、大量のカニ殻が発生します。これまでは使い道がないと思われていたため産業廃棄物として、処分料金を支払って廃棄されていました。
極細繊維を抽出する
このカニ殻を有効活用しようという研究が始まっています。
カニ殻には「キチン」という物質が含まれています。キチンはカニやエビの殻やカブトムシの皮のような硬い物質を形成する役割を担っています。カニ殻の不要分を除去し、まず純粋なキチンを取り出します。その後、精製して粉砕すればキチンナノファイバーが抽出できます。幅が約10ナノメートル(髪の毛の約1万分の1)の極細繊維です。
キチンナノファイバーは、キチンの分子が規則的に配列していて結晶を形成しているので、硬くて強い性質があります。キチンナノファイバーを脱水すれば、紙のようなシートに、樹脂を浸み込ませれば透明フィルムになります。見た目はプラスチックフィルムのようですが、熱をかけても膨張しません。現在のスマートフォンは基板に強化ガラスを使っていますが、キチンナノファイバーを使えば「曲がるスマホ」がつくれるかもしれません。
大きな可能性を秘めている
また、生体への効果・効用もあります。キチンナノファイバーを肌に塗れば皮膚の表皮が厚くなり、肌の弾力性が高くなるため、火傷などで皮膚や筋肉が損傷した場合、皮膚の再生に効果があります。
さらに生体の体内にキチンナノファイバーを埋め込んでも、炎症反応が起きないこともわかっています。そのため医療材料としての利用の可能が考えられています。また、大腸炎などの炎症に対しても、キチンナノファイバーを飲めば効果があることが動物実験で証明されています。
このように、キチンナノファイバーは新しい素材として、さまざまな可能性を秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 工学部 化学バイオ系学科 教授 伊福 伸介 先生
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