人工の毛細血管を作ることで、生体システムを解明!
小さいものをつかむだけがナノテクじゃない
マイクロ、ナノと呼ばれる極小の世界を操作・解析できるさまざまな技術が開発されてきました。その中には「ナノマイクロデバイス」と呼ばれるものの研究があります。そこでは細胞などとても小さいものをピンセットのようにつまんで調べる装置の開発や、髪の毛の20分の1の太さである毛細血管を人工的に作成するといった研究も行われています。人工の毛細血管であれば、そこに血流を通し、赤血球が血管内を流れる様子を詳細に観察することができます。どういう状況だと血流は通りにくいのかなどを調べることで、実際の血栓などの症状の解明に役立つのです。
光を使った版画の技術
同様のナノマイクロデバイスとしては、蚊が血を吸う針と同じ太さの針を人工的に作り出すことが可能となっています。先端の太さは0.001mm以下です。このような構造を作るには、フォトリソグラフィーという技術が使用されています。これは、アナログ写真で印画紙に画像を焼き付ける原理と同じで、光を当てて基板の上に特定の構造を焼き付けるもので、いわば「光を使った版画」です。
生体を模すと、生体が見えてくる
人工血管を使用した実験の中では、思わぬ発見もありました。血管内で赤血球を動かないようにある程度の時間捕まえておくと、赤血球の色が劇的に変化するという現象が観測されたのです。つまり、時間的・物理的負荷によって、赤血球に変化が生じるということです。色の変化は顕微鏡で確認できるため、病気の早期発見など診断への応用が期待できます。
また、花粉によって受精する植物では、めしべに花粉が付くと、そこから花粉管という細い管が伸びてめしべの中へ入り込み、受精が実現します。毛細血管同様、花粉管を人工的に作ることで、植物の受精のメカニズムを解き明かす研究も進められています。
ナノテクノロジーで生体を模した構造を作ることで生体システムを解明する研究は、医学や農業など、幅広い分野への貢献が期待されています。
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防衛大学校 システム工学群 機械システム工学科 准教授 洞出 光洋 先生
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