見ることのできない多様体の「かたち」を推測する
多様体とはどんな形?
数学では、さまざまな形を扱いますが、その一つに「多様体」があります。例えば、いろいろな形の積み木を積み重ねると、多くの面を組み合わせてできた多面体ができます。n次元の多様体というのは、その多面体のそれぞれの面がn個の座標軸を持つ標準的な空間になったものです。分解して一部を表現したり、頭の中で類推したりすることはできますが、実際に全体を一度に見ることは不可能な複雑な形です。このようなたくさんの多様体を分類し、整理し、理解するのも、幾何学の一つの目標です。
多様体を知ることで何がわかるの?
多様体を知ることは、宇宙の星の分布や成り立ちを知りたいと思うのと同じで、純粋に探検的な興味ということもありますが、データを集めることで、その全体的な傾向を知る手段にもなるのです。
例えば、地上の各地点での気温や気圧、湿度など多くの観測要素を持つ気象データを集めて、全体の様子を知りたいという場面を考えてみましょう。地図の上に高い次元の軸を立てて、この高次元の空間の中に各データをプロットすれば、プロットされた点は、ある秩序に従って高次元の容れもののなかに形をつくります。この形を目で見ることはできませんが、それを調べることで、全体の傾向を読み取ることができるのです。まだ観測されていない地点のデータを推測することなどに役立つかもしれません。
どうやって多様体を調べるの?
調べ方には、研究者によってさまざまな方法がありますが、その一つが、多様体の折り畳み(投影)を使う方法です。例えば、ビーチボールは、空気を抜けば二つに折りたたんで平らにできるし、紙風船も4つに折り畳めます。トーラスと呼ばれるドーナツのような形も、浮き輪のようにたたむことができます。これらは目に見える多様体ですが、目に見えない多様体も同様に折り畳むことができます。この多様体を折り畳んだときにできる曲線(しわ)の形から、高次元の「かたち」(多様体の性質)を探っていくのです。
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