データが明らかにする「人のつながり」がもつ価値

データが明らかにする「人のつながり」がもつ価値

ソーシャル・キャピタル

人や集団における関係性やつながりを経済社会活動の資源とする考え方を「ソーシャル・キャピタル」といいます。ソーシャル・キャピタルは形をもたない抽象的な概念ですが、コミュニティの良好な環境や関係を築き、暮らしや社会の営みを支える力をもっています。例えば大きな自然災害が起こったとき、行政はその地域に対して人命救助、住宅・インフラの再建といったハード面の支援を優先的に行います。しかし、長期的な生活再建を考えれば、地域自らの回復力を考え、潜在力を引き出すことも重要であり、ソーシャル・キャピタルはソフト面の支援として、生活再建・復興に深く関わると考えられます。

金銭的価値による評価

ある研究で、東日本大震災からの生活復興とソーシャル・キャピタルについての調査が行われました。アンケート調査を行い、近所付き合いや職場・学校、社会グループなどでの交流といった地域や集団におけるつながりに関する情報を集め、ソーシャル・キャピタルに該当する要素をデータとして数量化しました。この研究の特徴的な点は、理論モデルや統計学や計量経済学の手法を用いて、ソーシャル・キャピタルがもつ価値を「金銭」に換算した点です。

「〇%は決して小さくない」

経済学には長い歴史の中で構築されてきた頑健な理論があり、「所得」や「消費」は人の効用(満足度)を決定する主な要素であるとされています。一方で、人々はこれらの要素だけで幸福や満足を感じるとは限りません。ソーシャル・キャピタルの金銭的価値によって明らかになったソフト面の支援は、ハード面の支援にかかる予算に比べればわずかです。しかし、行政や外部からの資金・技術による支援ではフォローできない、個人の幸せや回復に深く関係している可能性も考えられます。「わずか〇%」ではなく「〇%は決して小さくない」と考えれば重要な支援となります。人のつながりや助け合いといった抽象的な要素を取り上げ、データや理論を駆使し、客観的な根拠を積み上げることも、経済学の大切な役割なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 准教授 奥山 尚子 先生

横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 准教授 奥山 尚子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

応用ミクロ経済学、計量経済学

先生が目指すSDGs

メッセージ

都市や地域について考えるとき、そこで暮らし働く人間の活動や社会の仕組み・制度についても正しく観察し、考える必要があります。そこで、社会の事象や問題について「見せかけ」である可能性を探ったり、原因や背景について様々な角度から考え、「思い込み」を排除することが重要です。ニュースを見ても、短絡的に結論づけるのではなく、まずは疑い、その背景にまで考えを巡らせましょう。「思い込み」ではなく根拠(エビデンス)に基づいた客観的な答えをみつけるために、私が専門とするデータ分析は極めて有効な道具であると思います。

先生への質問

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横浜国立大学に関心を持ったあなたは

横浜国立大学は、高い国際性と実践的な学問を尊重し、社会に開かれた大学をめざします。全学部の学生がひとつのキャンパスで学び、学部の垣根を越えた交流ができ、国立大学には数少ない経営学部も置かれています。新しい潮流を起こして21世紀の人類社会に貢献できるよう、社会からの要請を的確に把握し、国民から委ねられた資源を有効に活用しつつその活動を開放し、社会の期待に応えます。