テレビを見る人だけに音を届けるスピーカー
音の届く方向の制御
勉強に集中したいのに、家族が見ているテレビの音が気になるという経験はありませんか? テレビの前で見ている人だけに音が聞こえるようにできれば便利です。実は、いくつかのスピーカーを使って音と音を重ね合わせることで、音の聞こえる範囲を制御することができます。
通常の音は、発生源から同心円状に広がります。複数のスピーカーを一列に並べて一斉に鳴らすと、全ての同心円は同じ大きさなので、正面方向で波面がそろい、その方向に大きな音がまっすぐ伝わります。次に、列の端からタイミングを少しずつずらして音を鳴らすと、最初に鳴らした同心円が大きく、遅れて鳴らした同心円は遅れた分だけ広がりが小さいので、斜めの方向で波面がそろい、その方向に大きな音がまっすぐ伝わります。このように、指定した方向に直線状の音のビームを出せるのです。ただし、直線の長さは調整できず、まっすぐ延々と音が伝わってしまいます。
音の届く距離の制御
ある大きさの円弧を想定し、円弧上の各点に関する接線を上記の直線状の音のビームで描くと、いくつもの接線が円弧に沿って密に並ぶため、円弧に沿って大きな音が伝わります。つまり、円弧状の音のビームを作れるのです。おおむね円弧の範囲に音を封じ込められますが、円弧の外側に接線を描くという原理上、そちら側には大きな音漏れが生じます。そこで、2本の円弧を対向するように描き、円弧同士の交点を聴取点として利用します。つまり、交点では円弧同士が重なり合って音量が倍増するので、テレビを観たい人はこの場所にいれば、音がよく聞こえるのです。一方、円弧の外側同士が重なりにくいように配置すれば、音漏れ同士は強め合いませんから、相対的に音漏れの影響が緩和される仕組みです。
実用化に向けて
このようにスピーカーをいくつも並べた装置のことを「スピーカアレイ」と呼びます。届けたい場所に音が届けられるスピーカーが実用化されれば、同じ部屋にいるそれぞれの人がヘッドホンなしにテレビや音楽を楽しめるようになるかもしれません。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
工学院大学 先進工学部 機械理工学科 准教授 貝塚 勉 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
機械力学、制御工学、音響学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?