たった1個の細胞が持つ無限の可能性
発生初期のメカニズム
哺乳動物の発生はたった1個の細胞、「受精卵」から始まります。受精卵は細胞分裂を繰り返し、やがて胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる段階になると、胎児になる細胞群と胎盤を形成する細胞群に分かれ、続いて胎児を包む膜を作る細胞群が出来上がります。胎盤や胎児を包む膜は母体が作るのではなく、子となる受精卵が自ら作っているのです。それぞれの細胞は胚盤胞から取り出し培養することができ、例えば胎児を作る細胞を培養させたものを「ES細胞」と呼びます。
ES細胞の可能性
ES細胞の元になる細胞はいずれ胎児の器官になっていくわけですから、理論上はすべての細胞に変化させることができます。したがって再生医療の分野に生かせる可能性があり、現段階で神経細胞や血球、精子や卵子といった生殖細胞を作ることに成功しています。もともと胎児になる細胞のため胎盤となる細胞を作ることはできないのですが、もし作るメカニズムを解明できれば不妊治療や流産の防止に役立てられるかもしれません。何らかの理由により妊娠の継続が困難な母体を正常な妊娠状態に持って行くことが可能になるからです。このような技術を動物バイオテクノロジーとよびます。
倫理的問題についても考える必要がある
ES細胞を胎盤や胎児を包む膜に変えるためのカギとなるのが、受精卵が胚盤胞になる直前に現れる「ホメオドメインタンパク質」という遺伝子群です。細胞の行く末を決めていると考えられているこれらの遺伝子を使えば、本来は胎児を作るはずだった細胞を胎盤を作る細胞に変化させることも可能でしょう。
問題はその過程において、いかにして遺伝子組み換え技術を使用しないで行えるかです。遺伝子組み換えには倫理的問題もありますし、また安全性が確実でないと、いくら技術的に可能であっても、なかなか社会的に受け入れられません。例えば薬品を使うだけで同じ現象が起こせるなど、現実的に可能な方法を模索することも、こうした研究に必要なことなのです。
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秋田県立大学 生物資源科学部 応用生物科学科 教授 小林 正之 先生
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