産科医は「命の長距離走」をゴールへと導く伴走者
妊娠・出産には母子ともにさまざまなリスクが
「産婦人科」は「産科」と「婦人科」の総称で、婦人科は女性特有の病気を扱い、産科は妊娠・分娩(ぶんべん)を扱います。不妊治療や産前産後の母体ケアも産科の領域です。妊娠を促すことから、母子ともに健康で妊娠を継続して安全に出産してもらい、赤ちゃんを無事外界に迎えるまでをサポートするのが産科医です。
ヒトは受精後、平均約266日、胎児が3000グラム程度に育った時点で出産を迎えます。なかには胎児の発育に問題があったり、母体が妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になったり、早産で低出生体重児となったりと、妊娠から出産までにはさまざまなリスクが存在します。
胎児特有の血液循環
母親の胎内で羊水にひたっている胎児が、生命を維持するための最も重要な器官が胎盤です。胎盤と胎児をつなぐへその緒は酸素を供給してくれる命綱です。下大静脈を通って心臓の右心房に入ってくる酸素の多い血液は、卵円孔とよばれる心房の穴を通って左心房に直接送られます。胎児は肺呼吸をしないので血液は心臓から肺には流れません。妊娠中にはこの胎児特有の循環(胎盤循環)における血流のチェックが、胎盤機能不全などのリスク発見につながります。
赤ちゃんは命がけ
胎児が出生して新生児となると、もう胎盤には頼れず自分で肺呼吸をしなければなりません。生まれたての赤ちゃんが「オギャー」と泣く声を第一啼泣(ていきゅう)といい、大きな声で泣いて肺に空気をいっぱい吸い込み、まだぬれている肺の内部を乾かして自分で呼吸を始めます。すると肺に向かって血液がいっせいに流れ始めます。酸素を豊富に取り込んだ血液が左心房に戻ってくるために内圧が高くなり、胎児循環に必要だった卵円孔が自然に閉じていき、徐々に大人と同じ血液循環へと変わっていきます。
このように、赤ちゃんにとって生まれることは命がけの大変化の連続です。そして、この妊娠・出産と続く奇跡の長距離走を無事ゴールに導くための伴走が、産科医の大きな使命なのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 医学部 医学科 准教授 橘 大介 先生
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