「湯たんぽ」はなぜ気持ちがいい? 人の体から出る情報を解明
体から出る情報を探る
暑い場所にいると頭が「ぼーっとする」ことはありませんか。これは、前頭葉の温度が上がることで判断力などの認知機能が低下しているからです。人の体からは心拍、体温、血流のように言語化できない情報がたくさん出ており、これらの情報を計測して数値化する「センシング技術」を使えば、「ぼーっとする」のように抽象的な現象のメカニズムを知ることができます。
なぜ「湯たんぽ」は寝心地がいい?
日常的に使う道具と体の関係についても、生理学的な分析が可能です。例えば「湯たんぽ」を使うと、寒い夜でもぐっすり眠りやすくなります。一方で電気毛布に変えてから寝心地が悪くなった、と感じる人もいます。睡眠中の血流や体温を分析すると、その原因がわかります。人間は寝ているとき、足元から熱を逃がし体温を下げています。しかし電気毛布で一定の温度を維持すると体温が低下しにくくなり、睡眠の質が低下するのです。
ただし足の血管が収縮している状態では脳が興奮してなかなか寝つけません。まずは足を温めて血管を緩め、脳の活動を落ち着かせる必要があります。その後、足元の温度が下がれば睡眠の質が向上します。徐々に温度が下がっていく湯たんぽは、人間の体温や血流の変化などのメカニズムに即した優れた道具であることが明らかになりました。
進化する機械をめざして
生理学の研究で得られた成果は、体に装着するウェアラブルデバイスなどの機械開発にも活用され始めています。機械が体の情報を理解できれば、体調などに合わせた性能を発揮できるからです。体のコンディションは脳からの信号にも影響を受けており、周囲の状況によって筋肉から出る信号との協調性が変化すると考えられています。例えばパワードスーツに運動を補助してもらう場合、気温や体調によって動きを調節できれば、体に無理がかからず、けがの回避も期待できます。人間に合わせて進化する製品を実現するためにも、さまざまな状況を想定して体から出る情報を測定することが求められています。
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奈良女子大学 工学部 工学科 教授 芝﨑 学 先生
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