農産物をフレッシュな状態のままで貯蔵する方法
農産物を仮死状態にする
農産物を収穫した状態に近いフレッシュなまま、長く貯蔵するにはどうしたらよいでしょうか? どんなにフレッシュなものも収穫してしまえば、栄養の供給路が絶たれてしまうわけですから、収穫された農産物の細胞は死へのプロセスをたどるのみです。
これを阻止する方法として、まず思い浮かぶのはビニールのラップで包むことです。酸素と二酸化炭素の透過量を調節したビニールラップで、より長く品質を保つことができるのです。またそれ以外に、農産物を仮死状態にする方法があります。農産物の細胞内で起こっている生体反応を止めれば、死へのプロセス、つまり熟れすぎて腐ってしまう状態もいったん休止するというわけです。
薬を使わない麻酔
細胞内のほとんどは水分ですから、水分を固めれば細胞内の成分同士がぶつかり合うこともなく、生体反応が止まります。しかし、凍らせると細胞は壊れてしまいます。一度細胞が壊れてしまった農産物には、細心の注意を払って解凍しても、フレッシュなときの歯応えは望めません。
水に溶けにくく、生体反応を止めるものとして、化学反応を起こしにくいキセノンやヘリウムなどの「不活性ガス」があります。食品の酸化を防止するために、包装の袋内に不活性ガスを注入することがよく行われています。これを細胞に入れると、中の水分の動きが止まるのです。不活性ガスは、いわば薬を使わない麻酔のようなものなのです。
豊作のときにキープできたら
飽食と言われる現代では、せっかく豊作になっても、市場で余って価格が暴落すると廃棄されるケースが少なくありません。農産物をフレッシュな状態のまま長く貯蔵できる技術がもっと進めば、たくさん収穫できたときに保存しておき、不作のときに備えることができるのです。また、食べ物の足りない国に、新鮮なまま届けることもできます。農産物という自然の恵みを、技術を使ってうまくコントロールすることが今後の課題と言えるでしょう。
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