命をつなぐ医療機器(人工臓器)を安全に使う、臨床工学

医療機器のソムリエ
現代の医療現場には、さまざまな医療機器が使われています。中でも、人工透析の機器や人工呼吸器など、臓器の機能を代替したり補助したりして、患者の命をつなぐ「医療機器」を中心に扱う専門家が「臨床工学技士」です。病院や患者の自宅で機器の操作やメンテナンスを行います。
また、医師や看護師への情報提供や提案も業務の一つです。どの機器を使うかは医師が決定しますが、何を使うべきか、なぜそれが必要なのか、どんな注意が必要か、信頼できるデータを示しながら医師に提案する、「ソムリエ」のような役割をするのが臨床工学技士なのです。
目詰まりを防ぎスタッフの疲労を防ぐ
臨床工学の分野では、新たな医療機器の開発だけでなく、それを安全に使うためのさまざまな研究が行われています。例えば、人工腎臓膜の目詰まりを防ぐポリマーの開発です。
新型コロナウイルスがまん延していた時期、重症化した患者には「血液浄化療法」という治療が行われていました。血液を体外に取り出して、血液中のサイトカインという炎症物質を人工腎臓膜で取り除くのですが、この膜が目詰まりを起こさないように何度も交換する作業が、医療現場の疲弊につながっていました。このポリマーが実用化されれば、膜の交換回数が減り、医療スタッフの疲労からくるミスを防ぐことができると期待されています。
「医療安全」が使命
人工臓器の臨床評価も、臨床工学の重要な研究テーマです。新しく開発された機器が治療に使われた時、患者の検査データからその効果を調べて、治療方針の決定に役立てます。また、医療現場のミスは、スタッフ同士のコミュニケーション不足から起きることがあります。そこで、治療の記録に残されているチームのスタッフ同士の会話をAIで解析し、コミュニケーションの問題を発見するという研究もあります。
臨床工学技士は医療安全のために生まれた資格です。人工臓器、医療機器を安全に使うために、さまざまな角度からの取り組みが行われているのです。
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帝京科学大学生命環境学部 生命科学科 臨床工学コース 教授堀 和芳 先生
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