「生態人類学」が示す、グローバルな課題の解決へのヒント

「生態人類学」が示す、グローバルな課題の解決へのヒント

陸上に最も広く分布する生物は何か?

陸上に生息する生き物で、最も分布範囲が広い種は何だと思いますか? 実は人間です。地球上には高山、砂漠、熱帯、温帯、寒帯などさまざまな環境がありますが、ほぼすべての地域にいろいろな方法を用いて分布しているのが人間なのです。人間の生物としての側面にも注目しながら、何を食べるか、衣服をどう調達するか、どんな住居に住むか、そうしたことをする仲間をどのようにつくるかなど、地球上の多彩な環境にどうやって文化的に適応しているのかを考えるのが「生態人類学」です。

サバンナで井戸を掘る支援は正しかったのか?

アフリカのサバンナで生きる人たちが生活に必要な水を確保するには、雨が降った場所にそのつど移住するのが最も合理的な方法です。長い歴史の中で彼らはずっとそうやって生活用水を確保してきましたが、1980年以降の国連のアフリカ支援では井戸を掘ってかんがいをし、農耕を奨励して彼らを定住させようとしました。しかしそれは支援する側が暮らす温帯地域に適したやり方で、支援を受けるアフリカの人びとがつくりあげた環境文化は考慮されなかったため、定住地周辺が砂漠化するなどの問題が起こりました。こうした開発は、ヨーロッパ諸国によるアフリカ植民地時代から何度も繰り返されてきたのです。

独自の形で普及したアフリカの携帯電話

また、アフリカ諸国では近年携帯電話が爆発的に普及しています。しかし日本のように1人1台ではなく、携帯電話を家の電話のように家族や友人みんなで使っているため、情報のパーソナル化は起きていません。ここでは携帯電話のネットワークを利用して銀行とのやり取りのように送金できるシステムが確立し、急激に浸透しています。アフリカでは一般に銀行が少なく、お金を持って移動するコストや治安に難があるからです。最新テクノロジーも文化の土壌によって受け入れられ方、発展の仕方が異なるのです。
未来に向けてのグローバルな社会や政治、経済の問題解決に、生態人類学がヒントを提供できる可能性は大きいのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

徳島大学 総合科学部 社会総合科学科 准教授 内藤 直樹 先生

徳島大学 総合科学部 社会総合科学科 准教授 内藤 直樹 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

文化人類学、生態人類学

メッセージ

私はアフリカの乾燥地帯での開発や難民問題、日本では徳島の中山間地における過疎や鳥獣害問題など、地域社会に暮らす人たちが、直面するグローバルな問題にどう関わりながら自分たちの暮らしを新しく作り出そうとしているかを研究しています。グローバル化は先進国の都市だけではなく、地球の隅々のいろいろな地域で進んでいます。人類はかつてないグローバリゼーションのうねりの中、今後どんな社会を築こうとしているのでしょうか? 興味のある人は「文化人類学」という学問の扉をたたいてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

徳島大学に関心を持ったあなたは

徳島大学は有為な人材の育成と学術研究を推進することにより、人類の福祉と文化の向上に資するため、自主・自律の精神に基づき、真理の探究と知の創造に努め、卓越した学術及び文化を継承し、世界に開かれた大学として豊かで健全な未来社会の実現に貢献することを理念としています。
豊かな緑、澄み切った水、爽やかな風、温暖な気候に恵まれた徳島の地にあって、「知を創り、地域に生き、世界に羽ばたく徳島大学」として、発展を目指しています。