脳を介して、人間と動物との類似性まで広く探究する「生理心理学」
脳機能と行動から読み解く心の姿
記憶には脳の中の海馬(かいば)という部位が関係してきますが、記憶する内容の違いによる処理の詳細までは未解明です。また、相手の話を理解し、人間関係を築くといった社会的な活動をする際の脳機能も解明されつつありますが、臨床応用への道のりは遠そうです。脳機能の解明を通じて、人間の心理を科学的に解明することに挑むのが、「生理心理学」です。
動物にも人と類似する社会性はある!
この分野では、ラットで実験を行うことも多くなってきます。それなのに、少し前までは、ラットに人間に通じるような社会性はあまりないと考えられていました。現在では、ラットの得意なことに取り組む場面で、しっかりと科学的に実験することで、人間に通じる社会性がどんどん見えてきています。ラットは迷路でエサを見つけることが得意です。そこで、まず先に1匹を迷路に入れ、もう1匹にはそれを観察させました。観察した個体はそのあとで、一匹で迷路に取り組みました。その結果、見られていた方は、探索の効率が悪くなりましたが、観察後の個体は素早く迷路内のエサを見つけ、非常に効率的な振る舞いを見せました。別途、比較条件として、同じ迷路を単体で行った場合においても、観察した個体ほどの効率性は学習できませんでした。これまで観察の影響というと、見たままの行動がコピーされるという研究が多かったのですが、この実験は違いました。非効率な行動を観察して、むしろ自身の行動は効率化するという、いわば、「人のふり見てわがふり直せ」でした。
動物から得られた知見の行く先は?
今後、こうした行動実験を用いて、社会的な行動における脳内メカニズムが解明されていくでしょう。そして、精神疾患や、発達の障害におけるさまざまな困りごとの解決糸口も得られるかもしれません。さらには、さまざまな動物において、人間の予想を超えた社会性が科学的に示されていくことで、私たちの動物観や生命観を更新することに役立つかもしれません。その先にSDGsの達成があると期待されます。
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先生情報 / 大学情報
人間環境大学 総合心理学部 総合心理学科 教授 高野 裕治 先生
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