文豪ゲーテの知られざる多面性
社会現象を引き起こしたゲーテの文学作品
ゲーテはドイツを代表する文豪です。初期の作品『若きウェルテルの悩み』では、婚約者がいるシャルロッテに恋をした主人公ウェルテルの、自殺に至るまでの心情が書簡体で語られます。同書はヨーロッパ中で大ベストセラーになり、ウェルテルをまねて自殺者が続出するという社会現象を引き起こしました。かのナポレオンも、エジプト遠征の際に携行して7度も繰り返し読んだと言います。ゲーテは『若きウェルテルの悩み』で究極の恋愛について書きながら、同時に「人間」と「自然」の本質についての考察を深めたのでした。
自然科学の分野でも業績を残す
幼少時から英才教育を受け、大学では法学を修めたゲーテは、『若きウェルテルの悩み』をきっかけとして出会ったワイマール公国の国王アウグストから宰相として招聘(しょうへい)を受けます。その後、産業興隆のために政治家として国内の資源調査などを行うなかで、自然科学分野にも関心を抱くようになりました。彼は、地質学、植物学、解剖学、光学、色彩学などの研究でも業績を残しています。「ゲーテ骨」と呼ばれる顎間骨の発見や、色彩の関係を円環で表示した「色彩環」は特に有名です。
ゲーテの思想は、現代の科学懐疑論につながる
ただし、彼の自然科学の業績は当時、さほど評価されませんでした。科学の基礎である数学的証明が正式になされていなかったからです。しかし、「自然」の美をとらえようとしたゲーテの眼が真実をとらえていたことも確かです。ゲーテにとっての「自然」は、「外」の海や山だけでなく、人間の心の「内」をも表すものでした。それゆえ彼には、感覚の限界を超えた制御できない力にまで発展する科学技術の進歩の速さに対して不安を拭い去ることができなかったのです。この不安は、現代における「核」の問題にも通じます。世界文学となったゲーテの代表作『ファウスト』のなかには、そのような現代科学批判をも読み取ることができるでしょう。文豪ゲーテの知られざる多面性こそ、ゲーテ文学の懐の深さなのです。
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福岡大学 人文学部 ドイツ語学科 准教授 平松 智久 先生
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