プロスポーツ選手の現役引退後について考えてみよう
人気の職業に冷たい? 社会保障
ユーチューバーとプロ野球選手と将棋の棋士、この三者に共通するのは何でしょうか。どれも人気の職業ですが、自分で確定申告をして所得税を払う「個人事業主」です。会社に雇われて働く「会社員=労働者」と違う点は、社会保障があまり整っていないことです。会社員なら、会社を辞めて次の仕事が決まるまで「雇用保険」制度でお金がもらえますが、個人事業者にはその制度がありません。高齢になるともらえる年金の額も、会社員が月平均約15万円なのに、個人事業者は月平均約5万円です。日本では会社員を中心に社会保障が発展してきたからです。
現役引退選手をどう救う?
個人事業主のプロスポーツ選手は、現役を引退した後、雇用保険が出ない中で、どのようにして生活しながら次の職を探していくか、という問題に直面します。もちろん、現役引退後、監督やコーチ、経営部門などに残ることもありますが、採用枠はわずかです。スポーツ関係ではない仕事を探す場合には、スポーツ以外の能力が重要になるため、職探しに苦労をします。そこで、選手たちがお互いに助け合う組織(選手会)の一部では、引退する選手にまとまったお金を渡すしくみをつくっています。また、引退試合を行い、入場料などの収入を引退する選手に渡すしくみのあるスポーツもあります。華やかに見えるプロスポーツ選手は、社会保障のすき間で苦労し、何とか工夫をしているのです。
働き方に合わせた社会保障へ
オーストラリアやニュージーランドでは、現役のスポーツ選手に、引退後も含めた自分の人生をどう生きるかを意識してもらうプログラムを実施しています。面談をして、将来何をしたいかを聞き、時には体験してもらいます。プログラムでは、選手は仲間や家族にも言えない悩みも話せるので、メンタル面の助けになり、パフォーマンスが向上する効果があると言います。正社員ではない非正規雇用や個人事業者など、働き方が多様化する現代では、スポーツ選手に限らず、国民全体の社会保障の法制度を見直す必要があるのです。
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福岡大学 法学部 教授 山下 慎一 先生
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