自分のことが嫌? レヴィナスが考えた「自分の存在」

遅咲きの哲学者
エマニュエル・レヴィナスは、20世紀のフランスで活動した哲学者です。ドイツのフッサールやハイデッガーの哲学を独自に拡大・展開し、重要な著作をいくつも残しました。しかし、リトアニア生まれのレヴィナスは、ほかのフランス人エリートのように出世できず、大学で職を得たのも50歳以降になってからです。同時代の哲学者に比べるとかなり遅咲きといえますが、1960年代頃から徐々に注目され始め、20世紀のヨーロッパを代表する哲学者といわれるまでに評価を高めました。
自分から逃れたい
レヴィナスの思想は「人間には、自分の存在から逃れようとする衝動がある」というところから出発し、この衝動による自己との破れ目こそが「私」を作っているとしました。そして彼は、自分から逃れたいというこの衝動が、自分とは違う「他者」に向かって自分を開く、と考えました。それまでの哲学では、自分の存在は追求する対象、あるいはそうあり続けたい対象であったことを思えば、レヴィナスの考え方がいかに独特かがわかります。レヴィナスは後に、人間が自己とは異なるものへと関わる仕方を、「超越」という言葉で捉えるようになりました。
劣った生き方ではない
キャリア後期には、自分の存在から逃れたいという衝動の背後に、存在を手放すよう求める他者の倫理的な要求があると考えるようになりました。この「他者」やそれに対する「応答」は、レヴィナス研究における重要なテーマとなっていますが、こうしたテーマの下地になってる「自分の存在から逃れようとする衝動」も、レヴィナス哲学の重要なポイントです。現代では、「自分が嫌だ」「自分とは違う何かになりたい」という衝動は、得てして後ろ向きで、劣った考えとみなされますが、レヴィナスの説を採用するかぎりそうではありません。レヴィナス哲学をすべて理解するのは簡単ではありませんが、自分に違和感や居心地の悪さを少しでも覚えるなら、あなたもレヴィナス哲学のスタートラインに立っているといえるでしょう。
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九州産業大学国際文化学部 国際文化学科 准教授樋口 雄哉 先生
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