「量子化学」は、電子の運動を解析して物質を設計する
物質の性質を決める鍵は量子である
物質中に閉じ込められた電子はこれ以上小さく分けられない「量子」と呼ばれるエネルギーの粒々となって運動しています。いったん量子になるとそのエネルギーや形は自由には変化しなくなります。このような量子の頑強な性質によって、原子が集まって化合物となり、形や色が決まり、物質のさまざまな性質が生まれます。量子化学は「量子」を使って物質の性質が生まれるメカニズムを解析するのです。
太陽電池の材料を量子化学で設計する
化合物中で量子となって閉じ込められた電子は、光エネルギーを受けて解き放たれ、導線中を流れるようになります。これが太陽電池の基本原理です。量子の状態にある電子が変化するメカニズムは、量子化学の基礎方程式(シュレーディンガー方程式)によって手に取るように再現できます。化合物中の電子がどの波長の光を受けてどの程度の効率で変化するかを、シュレーディンガー方程式を使って計算することができます。効率のよい化合物を探し出すだけでなく、どの部分にどのような変化が起こって効率がよくなったのか、その詳細な理由まで追求できることが量子化学の優れている点です。
植物の光合成メカニズムを解析する
人工的に作った太陽電池とは比較にならないほどの高い効率で太陽エネルギーを利用しているのが植物の光合成です。光エネルギーをとらえる色素の構造や、色素からほぼ100%の確率で電子を取り出す種々の化合物の配列、その電子エネルギーから生命活動に必要な化合物を合成するメカニズム、どれもまさに神秘的です。光合成系のどの部分をお手本にすればよいのかを探るために、量子化学の計算シミュレーションが役に立ちます。光合成系を構成する1個のアミノ酸を別のアミノ酸に置き換えたらどうなるのかは、遺伝子組み換えによるミューテーション(突然変異を作りだすこと)によって実験しますが、この結果は量子化学の計算シミュレーションでもある程度は予測することができるようになっています。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 理学部 化学科 教授 波田 雅彦 先生
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