スーパーコンピュータで薬を創る! インシリコ創薬とは
創薬の新しい手法「インシリコ」
新薬の開発には、従来、動物・細胞を使った実験(インビボ)や試験管での実験(インビトロ)が行われてきました。それらの手法に新しく加わったのが、計算機を使って原子や分子からアプローチする第3の手法「インシリコ創薬」です。新薬の開発は、薬のターゲットとなるタンパク質などの物質を定めてから、それに作用する化合物の探索、臨床試験などを経て、その申請まで10~15年かかります。そのため、インシリコ創薬による開発期間の短縮が期待されています。日本では、スーパーコンピュータ「富岳」を中核としたスパコンネットワークを利用して、創薬の技術研究が進められています。
スーパーコンピュータで薬の候補を
特定のタンパク質などをターゲットにして作用する薬は「分子標的薬」といい、副作用が出にくいなどのメリットがあります。例えば、アレルギー症状を抑える薬は、アレルギー物質よりも強く標的タンパク質に結合することでアレルギー物質の結合を妨げます。計算機を使えば、標的タンパク質の結合エネルギーを計算し、ライブラリにある何百万という化合物に対して、標的タンパク質に結合する強さの順位づけをすることができます。薬の候補が絞りやすくなり、新薬開発の期間短縮が可能なのです。
分子間の相互作用情報をデータベース化
タンパク質の結合エネルギーを計算するには、古典力学と量子力学の二つの方法があります。量子力学を使うと古典力学よりも精密にエネルギー状態が予測できますが、タンパク質全体の量子化学計算は非常に複雑で、そのままではスーパーコンピュータでも解けません。そこで、タンパク質をフラグメント(断片)に分割して部分エネルギーから全体を計算する、日本発の理論「フラグメント分子軌道法(FMO法)」が用いられています。FMO法からは、標的タンパク質と化合物の相互作用についても情報が得られるため、それをデータベース化して公開し、誰もが創薬に利用できるような基盤づくりが進められています。
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大阪大学 薬学部 薬学科 教授 福澤 薫 先生
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