世界一環境にやさしい泡の消火剤
きっかけは阪神淡路大震災
火災現場で、消防車から噴射される水は、実はその約1割しか消火活動に使われていません。あとの9割はただ流れ落ちるだけです。しかも火災現場は、消火栓のある所ばかりとは限りません。阪神淡路大震災では、地震で消火栓が壊れ、思うように水が確保できませんでした。そこで注目されたのが、「泡」を使い火への酸素の供給をシャットアウトする消火剤です。アメリカで実用化されているものは、使用する水量が従来の半分で済むものの、泡が消えずに残るという問題があり、環境に与える影響も懸念されます。
天然油脂の石鹸でつくる消火剤
それならば世界一環境にやさしい泡の消火剤をつくろうと、産学官の共同研究が行われました。泡にするのは、界面活性剤の一種である天然油脂由来の石鹸です。界面活性剤とは、水と油など本来混ざらない性質のものをくっつける物質のことです。石鹸には、ほかの界面活性剤と違い、生物への影響が少なく、泡が消えずに残ることもほとんどないという特長があるのです。しかし、石鹸は水と混ぜると水中のカルシウムなどと結合して金属石鹸(石鹸かすのようなもの)となり、泡立ちにくいという欠点があります。泡立ちをよくするには化学物質を混ぜる方法がありますが、微生物が分解できるものでなければ環境に配慮しているとは言えません。そのため700ほどの試作品で実験が重ねられました。
専用消防車の開発で難問を解決
難問を解決したのは、新しい消防車の開発です。従来は石鹸でつくった消火剤を水に溶かし、噴射のときに泡にするしかありませんでした。それが車両の中で圧縮空気と消火剤を混ぜ、泡の状態で保てるようになったのです。これにより、高い消火能力と使用する水量を従来の17分の1に減らすことに成功しました。さらにこの消火剤は、生物学者の協力を得て、世界一環境負荷が小さいことも検証されました。これは林野火災に大きな威力を発揮する可能性があるため、国内だけでなくアメリカ、カナダ、インドネシアなどからも注目が集まっています。
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