食用きのこから抗がん剤を作る!
未知の有効物質を秘めた「宝の山」
現在、世界中で知られているきのこの種類は数万種にのぼり、その中には農薬や医薬品になるような有効成分を含むものが数多く見つかっています。ところが、地球上にはまだ知られていないきのこが百万種以上あるといわれており、これらの未知のきのこから、未知の有効物質が見つかることも大いに考えられます。また、既知のきのこについてもまだすべての有効成分がわかっているわけではありません。
そこで、身近な食材としてのきのこから、新しい抗がん剤を探し出す研究が行われています。
抗がん作用のあるきのこを探す
保存されている約2000種のきのこの抽出物から食べられるものをピックアップして、がん細胞と正常細胞への作用が調査されました。そして、ヌメリツバタケモドキというきのこの抽出物に「がん細胞は殺すものの、正常細胞には作用しない」という効果が認められました。この抽出物から有効成分として特定されたのは、すでに農薬として使われているストロビルリン系化合物です。つまり、細菌やカビを殺すことに使われてきたストロビルリン系化合物が、がん細胞を殺す働きもあることがわかったのです。ヌメリツバタケモドキの抗がん作用は未知の物質によるものではありませんでしたが、既存の農薬であるため、安全性はすでに確認されています。
副作用のない新しい抗がん剤開発をめざす
ストロビルリンががん細胞を殺すメカニズムの一つは、農薬が細菌に作用するのと同じで、がん細胞のミトコンドリアの代謝を阻害するというものです。それに加えて、ストロビルリンはがん細胞のタンパク質合成も阻害していることが研究によって新たにわかりました。もっとも、これは培養細胞でのふるまいであり、実際の生体での影響はまだわかりません。このタンパク質合成阻害のメカニズムをさらに詳しく解明して、より効果的かつ特異的にがん細胞に作用するような、副作用のない新しい抗がん剤開発へつなげることが目標とされています。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 共同獣医学科 獣医薬理学 准教授 高橋 賢次 先生
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